サキュバスパンデミック25

 プリムラは満足そうに頷いて伸びをすると、翼を広げて窓から飛び出す。ケセラもそれに続いた。

「さぁ、みんなー! そろそろ帰るわよー!」

 プリムラがそう言うと、サキュバス達は「はーい!」と返事をして一斉に空へと舞い上がる。

 プリムラはムチャ達に向き直る。


「私、人間の事を全部知ったつもりでいたけど、少し勉強になったわ。学校って凄いわね」

「だろ? 人間滅ぼす前にもっと勉強しろ!」

「クリバー学園ナメンナヨ!」

「はいはい、今日は楽しかったわ。じゃあ、またいつか会いましょう!」


 そう言ってプリムラは、サキュバスの大群と一緒にバッサバッサと飛んで行く。


「ケセラ!」

 ムチャが飛んで行こうとするケセラに声を掛けると、ケセラは振り返り、気まずそうな表情を浮かべながら、何かを言おうとしている。

「もうお別れなんて言うなよ!」

「私達、友達なんだからね」

 ケセラはモジモジしていたが、やがて大きく頷く。

「ム、ムチャさん! さっきは覚悟が足りなくてアレでしたけど、今度はちゃんと覚悟して来ますから!」

「その話はもういいよ!」

「トロンさんも、私は一夫多妻でも愛人でも構いませんから! そこは今度話し合いましょう!」

「あ、私は遠慮しとくよ。でも、ケダモノには首輪つけとかないとね」

「おい!」

 そして三人は笑った。

 ケセラは別れの挨拶をすると、バッサバッサとプリムラ達の後を追って飛んで行く。その背中は、どこか清々しい気持ちを湛えていた。


「終わったなぁ」

「終わったねぇ」


 二人は床に寝っ転がり、大の字になって息を吐く。二人の耳には、皆の無事を喜ぶ生徒達の歓声が、心地良く響いていた。


 一方その頃。


 時計塔の入り口を守っていたレオとリャンピンは、互いの頑張りを褒め称えながらも、どちらが多くのサキュバスを無効化したかで言い争いをしていた。彼等は良きライバル同士であるが、もしかしたらいつかは良き伴侶になる事もあるやもしれない。


 ニパとマリーナは黒い球から出た後も、球になる直前の事を思い出して、とっても気まずい思いをしていた。因みに球の中では、二人でフェアリーボールをしている健全な夢を見ていた事は言うまでも無いだろう。


 そしてハリーノは、エスペリアにキスをするかどうか悩んでいたが、鼻がぶつからないためにはどうすれば良いだろうかモタモタ悩んでいるうちに、エスペリアにそっぽを向かれてしまった。この二人が進展するには、まだまだ時間がかかりそうだ。


 少し休んだムチャとトロンは、ふと思いついて最後の仕事をする事にした。二人は時計塔の上に登り、学園を見渡す。大きな怪我をした者はいなそうだが、サキュバス達の突入と、サキュバス達との激しい乱闘により、校舎の窓はあちこち割れ、出店の屋台は見事に倒壊している。これでは明日の学園祭の開催はとても無理だ。


 そこで、二人は力を振り絞り、もう一度だけイメージハウリングブラストを発動する。


「みんなーーー!! 明日は楽しい学園祭だ! 徹夜で準備するぞーーーー!!!!」


 学園全体から、一際大きな歓声が上がった。

 若さとは愚かで、無茶で、素晴らしい。

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