獣達の夜9
三人が山を登って行くと、徐々に木々が少なくなり、ゴツゴツとした岩場が目立つようになってきた。
「こりゃまるで登山だな」
ムチャとレオは体力の無いハリーノに肩を貸しながら、足元に気をつけて暗い岩場を登って行く。
「はぁ、はぁ……あのさ、僕なりに秘宝の正体について考えてみたんだけどさ」
ハリーノの言葉を聞いて、ムチャとレオはドキリとする。
「先輩の先輩達が手に入れたのは「無限の秘宝」って言ってたよね。でも、秘宝を持ち帰った事は知っているのに、具体的な姿形は伝えられていない……」
「待てハリーノ、それ以上言うな」
「それってさ、もしかして形の無い宝、例えば試練を乗り越えた末に結ばれた「友情」とかじゃ……」
レオがハリーノの口を塞いだが時既に遅し。ハリーノは二人が薄々思っていた言ってはいけない事を言ってしまった。
「うわぁぁぁぁあ!! バカ野郎! お前推理小説の犯人とか言っちゃうタイプか!?」
「だ、だって! いかにもありそうなオチじゃないか! ゴーレム達だってやけに弱かったし、泉の魔法も僕達を傷つけるような罠じゃなかったし、きっとあれは先輩達が仕掛けたんだよ! 後輩達をからかう伝統行事みたいなものなんだよ!」
「ふっざけんなよ! ここまで来て最後はみんなでお月見して終わりなんてオチがあってたまるかよ! 目的地まで行ったらお揃いのリストバンドでも置いてあるってのか!?」
レオはハリーノの胸倉を掴んでガクガクと揺さぶる。すると、ムチャの手がレオの手を止めた。
「ムチャ! お前からも何か言ってやれよ!」
ムチャはふるふると首を横に振る。
「いや、俺も確かにそのオチはありえると思っていた。でも、仮に秘宝が形無いものだとしても、それだけじゃないと思う」
「どういう事だ?」
「だって、もしハリーノの言う通りただの伝統行事だとしたら、絶対誰かがブチギレてそこで途絶えてるはずだから」
「「確かに」」
それはかなり説得力のある言葉であった。
苦労してここまで来て、もし仮に秘宝の正体が友情だけであるのなら、ムチャ達三人はブチギレて後輩達にそれを伝えたりはしないであろう。こんな手の込んだイタズラはやめて、来年からはぬるぬる油相撲大会でも開催するはずだ。
代々語り継がれるからには、そこには必ず何かがあるはずなのだ。
「無限って言うからには、俺は魔法に関する何かだと思う」
「それはあるかも! 目的地には願いが叶う魔法陣があって、成績が上がるとか! 恋が叶うとか!」
「それはいいな! よっしゃぁ! 燃えてきたぜ」
なんとかモチベーションを回復した三人は、再び岩場を登り始める。秘宝の正体が友情で無い事を願って。
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