獣達の夜10

 更に進み、額に汗をかき始めた頃、三人は地図に記された目的地の近くまで来ていた。随分と山を登ってきたらしく、振り返ると遥か遠くにぼんやりと男子寮と女子寮の灯りが見える。

「あとは、あっちに真っ直ぐ進むだけだね」

 レオが地図で現在地を確認し、目的地らしき方角を指差す。そこには五メートル程のはばがある一本道があった。いよいよ間近に迫った秘宝との対面に、三人は胸を躍らせる。

「このまま何事も無く辿り着ければいいんだけど……」

 そう呟いたハリーノをレオが睨み付けた。

「お前、不吉な事言うのが好きだな」

「だってさぁ、宝物には番人がいるって相場が決まってるし」

「だからそういう事言うと本当に何か起こるから言うなっつーの!」

 レオがハリーノの頭をワシワシとこねくり回したその時、レオの悪い予感は的中した。


 ボワワワワワン


 突如空中から発生した煙と共に、緑色の肌をした巨大な人影が現れる。

「巨人!? いや、魔人!?」

「だから言うなって言っただろ!」

「言わなくても出るときは出るよ!」

 三人は突然の魔人の出現に慌てながら、それぞれの武器を構える。

 すると、緑色の魔人が口を開いた。


「我は主人との契約によりこの道を守る者。元来た道を帰れ」

 魔人は腹の底に響く声で言った。

「帰らない……と言ったら?」

 真ん中に立つムチャが、剣先を魔人に向けて一歩前に進み出る。ちなみにこのセリフはムチャの言ってみたいセリフランキング第16位にノミネートされていた。

 ムチャの言葉を聞き、魔人はキッと目を釣り上げた。

「力尽くで帰らせる!」

 そして組んでいた腕をガバッと広げる。

「やってみろよ! 行くぜ! レオ、ハリーノ!」

「「おう!」」

 秘宝を巡る三人と魔人の戦いが始まった。




 数分後、かっこよく飛び出したはずの三人は岩陰で魔人から隠れていた。

「強い! あいつ強すぎる!」

 まず魔人は硬かった。ムチャの剣もレオの弓もハリーノの魔法も、その緑色の肌にことごとく弾かれてしまう。更に魔人は口から火を吐くわ、目からビームを出すわ、足は臭いわでやりたい放題であった。

「あんな魔人倒せるわけないよ!」

 ハリーノが肩で息をしながら弱音を吐く。

「あいつを倒す方法……倒す方法……そうだ!」

 ムチャは閃いた。

「倒さなくていいじゃん! あいつはあの道を守ってるって言ってたし、あいつを無視して秘宝まで向かえばいいんだ!」

「でも、地図では秘宝への道はあの魔人が塞いでる一本道だけだよ」

 三人が辺りを見渡しても、片側は山頂へと向かう絶壁、その反対側は崖となっており、迂回できそうな道は無い。

「それなら、正面から魔人を躱すしか無いだろ!」


 三人が岩陰から飛び出すと、魔人は道を塞ぐように仁王立ちをしていた。どうやら道に近寄らなければ攻撃はしてこないようだ。

 三人は魔人の攻撃を警戒しながらジリジリと歩みを進める。

「俺は山側を抜けるぜ」

「じゃあ、僕は崖側を」

「俺はあいつの股を潜る」

 そして互いに目で合図をすると、同時に地を蹴って走りだした。

 魔人との距離が縮まると、魔人はムチャに向かって右腕を振り下ろす。ムチャはそれを躱し。ガニ股になっている魔人の股下を、スライディングで滑り抜ける。

「やった!」

 無事に魔人の股を抜けたムチャは、二十メートル程走り、他の二人の無事を確認するために振り返った。


 二人はあっさり魔人に捕まっていた。

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