獣達の夜11

「レオ! ハリーノ!」

 レオは魔人の左手に、ハリーノは驚くべき事に魔人の口から伸びた長い舌に捕まっていた。

「うわぁぁぁぁあ! 毛が、手に毛が生えてる!」

「ヌルヌルする!臭い! 気持ち悪い!」

 ムチャは二人を助けるべく魔人の元へと戻ろうとした。すると、レオがムチャに向かって叫んだ。

「来るな!」

 ハリーノも魔人の口臭に顔をしかめながら叫ぶ。

「行くんだムチャ! 秘宝を手に入れるんだ!」

 二人の叫びを聞いて、ムチャは足を止めた。


「そんな事できるわけねぇだろ! 今助けに……」

「来るなって言ってるだろ!」

 ムチャの言葉をレオの叫びが遮る。

「君まで捕まったら、僕達は何のためにここまで来たのかわからないじゃないか!」

 二人の目は本気であった。彼らは自分達が秘宝に辿り着く事を諦め、全てをムチャに託すつもりなのだ。


「この魔人は秘宝への道を守る魔人だよね。それなら僕達が秘宝を諦めればこれ以上何もしないさ。臭いけど」

「俺達はこいつと仲良くしとくからよ。後で秘宝が何だったか教えてくれよな」

 ハリーノは苦笑いを浮かべ、レオはおどけたようにムチャにウインクをした。


「お前ら……」

 その時、ムチャの心に「友情」の二文字が刻まれた。そしてムチャは、かつてケンセイが言っていた事を思い出す。


「ムチャ、感情術には真の友情を知るものだけに使える技があるんだ」

「友情……って何?」

「一言では説明が難しいな。強いて言うなれば……『共に苦楽を乗り越えた者との決して切れない絆』かな」


 ムチャと二人が出会ってからまだ日は浅い。それに彼等だって苦労して一緒にここまで来たのだから、絶対に秘宝を手に入れたいはずだ。

 しかし、それにもかかわらずムチャに全てを託そうとする二人の姿を見て、ムチャは学んだ。

「ケンセイ、わかったよ。これが友情か」

 そしてムチャはその手から剣を放し、目を閉じて深く息を吸い込む。

「我が身に宿る喜の感情よ」

 すると、ムチャの両腕から黄色いオーラが立ち上り始める。

「我が心を宿し、決して絶えること無き金色の絆となれ」

 そしてムチャは、両手を前方に突き出して叫んだ。


友情絆鎖ゆうじょうきっさ!!」


 ムチャの両手から黄色い喜のオーラが放たれ、魔人に捕らえられているレオとハリーノをそれぞれ魔人の左手と舌先ごと包み込む。二人を包むオーラは、ムチャの左右の手と細いオーラで繋がれており、これで三人はムチャのオーラにより仲良く繋がった。

「うわ! 何だこれ!?」

「なんだか温かい……」

 二人を包み込んだオーラは徐々に縮み始め、魔人の左手と舌だけをギリギリと圧迫し始める。

「ぐ……ぐむむ……」

 魔人はその痛みに呻き声をあげ、二人を捕らえる力を弱めた。そして、ムチャが力を込めて両手を引くと、オーラに包まれたレオとハリーノは魔人の左手と舌先からすっぽ抜けた。二人を包み込んだオーラはゴムのように縮み、二人をムチャの元に引き寄せる。引き寄せられた二人は、勢い良くムチャの胸へと飛び込んだ。しかし、あまりに勢いがつきすぎていたいたために三人は激しく激突してゴロゴロと岩場を転がる。

「いたたた……」

「今のは何だ? 魔法か?」

「いいからさっさと逃げるぞ! いやっほぉぉぉう!」

 ムチャは奇声をあげながら、素早く起き上がり走り出す。

 感情術でテンションのおかしくなったムチャに戸惑いながらも、二人も立ち上がり、ムチャの後に続く。

 三人の背後では、魔人が悔しそうに地団駄を踏んでいた。

 こうして、三人は本日三度目の危機を乗り越えたのであった。

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