獣達の夜12

「ムチャ君、本当に助かったよ」

「ありがとうな。やっぱりダチは最高だぜ!」

「そりゃあ、ここまで来たら一連托生だろ」

 魔人から逃れた三人は、崖と絶壁の間にある細い道を足早に進む。ここに来るまでに寮を出てから既に数時間が経過しており、山登りと三度の困難を乗り越えたことにより、三人の疲労も蓄積されていた。

「しかし、魔人まで出てきたとなればいよいよ秘宝の存在が眉唾じゃなくなってきたなぁ」

「先輩達じゃあんなに強い魔人は召喚できないもんね」


 しばらく進むと、三人はついに地図に記された星印の地点へと辿り着く。

 細い道を抜けた先には、少しだけ拓けた岩場があり、その先にはぽっかりと洞窟が口を開けていた。

「あの中に秘宝が……」

 三人はゴクリと唾を飲み、洞窟の前に立つ。

 洞窟の奥からは僅かに光が漏れており、僅かに水音が聞こえてくる。そして、何やら腐臭のような臭気が三人の鼻をついた。

「何だこの臭い……」

「まさか毒ガスじゃないよね」

「いや、これは……」

 ムチャはかつて旅の途中でその臭いを嗅いだ事があった。

 ムチャは先陣を切って洞窟へと足を踏み入れる。他の二人も不安げな表情を浮かべながらもムチャの後に続いた。

 そして数十メートル進むと、臭いの正体が明らかになった。

「やっぱり!」


 かぽーん


 洞窟の中には広い空間があり、その中には広々とした温泉が広がっていた。

 そう、臭気の正体は温泉から出る硫黄の臭いだったのだ。温泉内にはご丁寧に魔法照明が設置されて、温泉を明るく照らしていた。

「「温泉!?」」

 レオとハリーノはその光景に唖然とする。

「秘宝って、温泉だったのかよ!」

「「無限の秘宝」ってそういう事だったんだね」

 秘宝の正体に力の抜けた三人は、へなへなと近くの岩場に座り込んだ。

「まじかよー! もっとすげーもんかと思ってたのに期待外れだなぁ」

「とりあえず、入るか」


 長い時間歩いてきて疲れ果てていた三人は、とりあえず服を脱いで温泉に入る事にした。

 三人は服を脱ぎ散らかすと、温泉の縁に立つ。

「「せーのっ!」」


 ドポーン!


 そして三人は勢い良く温泉へと飛び込んだ。

 温泉は程良い温度で、ここまで歩いてきた三人の疲れを癒す。

「はぁー、極楽極楽……」

「こりゃ秘宝って言われるのも頷けるな」

 温泉に浸かりながら、三人は夢見心地で目を閉じる。あまりの気持ち良さに、三人はそのまま眠ってしまいそうだった。

 ふと、ハリーノがある事に気付いた。

「でもさ、何であんな罠が仕掛けられてたんだろう? ただの温泉のためにあんなに色々仕掛けるかな?」

 確かにハリーノのいう通りである。ただの温泉であれば罠を仕掛ける必要は無い。イタズラやただの伝統行事であったとしても手が混みすぎている。

「……つまり、この温泉にはまだ何かがあるって事か?」

「うん。ほら、まだ奥もあるみたいだし」

 ハリーノが指差した方には、人が通れるくらいの穴が空いており、まだ洞窟の先があるようであった。

 三人は肩まで湯に浸かって完全に温まると、温泉から出て、全裸のままその穴を覗き込む。


 その時、穴の奥で魔法らしき光が強く輝いた。

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