ニパ、読書家になる

 その日、ニパとプレグの二人は宿の一階にある食堂で遅めの朝食を取っていた。今日は闘技場の前座の仕事は休みである。なのでゆっくりと朝食を楽しむ事ができるはずなのだが……


 カツカツカツカツカツカツカツカツ


 ニパはサラダとパンの朝食を、フォークが口に刺さらないか心配になるほどの物凄い速さでかきこんでいる。

「ちょっとニパ、あんたもう少し行儀よく食べなさいよ」

 プレグはニパと対照的に優雅にフォークを動かしながら、鼻頭にドレッシングをつけていつも以上に野性味のある食べ方をするニパを窘めた。

「カツカツカツカツ……ゴクン。ふぁい」

 ニパはパンとサラダを食べ終えると、気の無い返事をしてコップに注がれたオレンジジュースを一気に飲み干す。

「ごちそうさま!」

 そして椅子から素早く立ち上がり、朝食のお盆を食堂のカウンターまで持って行き、テーブルに置いていた本を手に取ると、足早に食堂を出て行こうとする。

「ちょっとー、どこ行くのよ? 最近しょっちゅう出かけてるけど」

 ニパがプレグと旅をするようになってから、ニパはプレグが鬱陶しく思うほどべったりくっついていたのに、最近はよく一人で街に出掛けている。プレグとしては弟子が何かしでかしていやしないかと心配であった。

 プレグがニパの背中に声をかけると、ニパは足踏みをしながら振り返り、少しモジモジしながら答えた。

「えーと……図書館!」

「図書館? あんた急に読書家になったのね。最近よく本読んでるし」

「そうそう、最近目覚めちゃって! じゃあね!」

 立ち去ろうとするニパに、プレグは更に声をかける。

「今日私このまま出るけど、あんた部屋出る時に鍵かけた?」

「かけた!」

「窓は閉めた?」

「えーと……閉めた!」

「トレーニングは?」

「帰ったらみっちりやります!」

 食堂の床はニパの足踏みで穴が空いてしまいそうだ。

「なら行ってよし!」

 プレグがGoサインを出すと、ニパは解き放たれた犬のように食堂を飛び出して行った。そんなニパの背中を見送りながらプレグはため息をつく。

「あれは間違いないな……」

 どうやらプレグは弟子の心中をお見通しのようだ。

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