学園祭前日3
その後ハリーノはどうやって寮まで帰ったのか覚えていない。気がつくとローブのままベッドで寝ていて、レオに起こされて目を覚ました。因みにムチャは昨夜も遅くまでトロンと稽古をしており、二人が寝静まった頃に寮に戻り、今朝も早朝に寮を出たので、ショボくれたハリーノの姿は見ていなかったのだ。
「まぁ、何があったのか知らないけど、喧嘩するほど仲が良いって言うし、そんなに落ち込むなよ」
「あぁぅ」
ムチャがポンポンとハリーノの肩を叩くと、ハリーノは死んだ目のままで、ドブに落ちたアンデットのような返事を返す。それを見た一同は、せっかくの学園祭を前にして、なんてこったパンナコッタと顔を見合わせる。皆なんやかんやと二人を茶化しながらも、ハリーノとエスペリアがうまくいく事を願っており、明日の学園祭でもっと二人が進展することを願っていたのだ。
「ハリーノ同士よ、女なんて学園に沢山いるんだしさ。エスペリアの事は諦めて、明日は俺と学園コンパに参加しようぜ!」
まぁ、親友に先に恋人を作られたレオはその限りでは無いようだが。レオはこの発言の後、リャンピンに頭蓋骨陥没ゲンコツを食らい沈黙する。
逆に意外と気遣いができるムチャは、なんとかハリーノを慰めようと慎重に言葉を選んだ。
「喧嘩しちまったもんは仕方ねぇよ。これからもずっとエスペリアと仲良くしていくなら、喧嘩する事なんて何度もあるだろうし、それにさ、喧嘩したって事はエスペリアと対等になれたって事だろ?」
「タイ……トー?」
「そうそう、対等だ! ろくに口もきけなかったエスペリアと喧嘩できるようになるだなんて、ハリーノも随分成長したじゃないか。喧嘩ってのは対等の関係じゃなきゃ成立しないんだぞ!」
「でもムチャ、昨日チュートロと喧嘩してたよね?」
そう、昨日ムチャは稽古の合間に食べようと思っていたチョコピーナッツをチュートロに全部食べられてしまい……いや、それはどうでも良い。ムチャは無言でトロンの肩にスパンとツッコミを入れる。
「俺とトロンもたまに喧嘩するけど、こうしてコンビやってるしさ。お前もエスペリアと正式にコンビになりたいなら、一度の喧嘩くらい乗り越えてみせろ!」
「エスペリア……コンビ……」
ハリーノの目に、少しだけ光が戻ってくる。
「そう、僕は、エスペリア様と対等になりたかった……でも僕はエスペリア様みたいに優秀じゃないし、イケメンじゃないし、実家はただの本屋だし……」
ブツブツと何か語り出したハリーノに、一同はやや引いてしまうが、人語が喋れるくらいに回復したのにはホッとした。
ハリーノという少年は、思い込みが強いのだ。だからポジティブな時はテンションうなぎ登りだが、一度落ち込むと中々抜け出せなくなる。
アンデットから人間に戻ったハリーノに、今度はリャンピンが声をかける。
「ハリーノ! いつまでもそんなにウジウジしてたらエスペリアに嫌われちゃうよ! じゃあ、こうしよう。今から私達と学園を周って、完璧なデートコースを考える。そして明日エスペリアとデートして、完璧にエスコートして仲直りすればいいじゃないの! エスペリアの方は私とトロンがなんとかするからさ」
すると、真剣な目をしたレオがリャンピンの肩を掴んだ。
「いや、ダメだ。ハリーノは明日俺達と学園コンパに……」
そこまで言ったレオを、芸人コンビが迅速に束縛する。
「それで良いよね? 良い作戦でしょう?」
リャンピンは「フシャー!」とレオを睨みつけてから、母親が息子に言い聞かせるように、少し屈んでハリーノの顔を覗き込む。屈んだリャンピンの胸元がチラリと見えて、ハリーノはまた少し生気が回復した。
「う、うん」
こうして、五人はヨチに別れを告げて、準備する者達で賑わう学園へと繰り出したのだ。
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