学園祭前日4

 旧校舎を出た五人は、湖を半周して校舎や商店の並ぶ通りへと向かう。その道中では、学園祭の出し物準備をする生徒達の姿がちらほらと見えて、お祭りムードを感じさせた。そんな中、レオはふとある事に気がつく。


「なんかよぉ、カップル多くねぇか?」


 そう、レオの言う通り、ここまでの道中、数組、いや、両手で数えきれない程のカップルらしき男女を見かけた。ベンチに腰掛けて互いに見つめあっていたり、手を恋人繋ぎにして歩いていたり、皆恍惚とした幸せそうな表情を浮かべていた。


「お祭りだからじゃないのか?」

「いや、だけどあんまりにも多いなと思ってよ」


 クリバー学園は別に男女恋愛を禁止しているわけではなかったが、道中で堂々といちゃついたり、手を繋いで歩いたりするカップルは滅多に見かける事は無い。敷地が広く人目につかずにきゃっきゃウフフできる場所が多いという事もあるし、そもそも学生は、恋人といるところをクラスメイトに見られて、からかわれるのは嫌なものであろう。いくらお祭りムードが高まっているとはいえ、今日見かけるカップルの数はあまりにも多すぎた。


「去年はこんなにいなかったよな。なぁ、ハリーノ」

 レオがハリーノを見ると、ハリーノはポケーっと口を半開きにしながら、羨ましげなのか悲しげなのかわからぬ表情を浮かべて、一組のカップルを見つめている。どうやら半失恋中のハリーノには、この光景は毒であるようだ。レオとリャンピンは、それぞれハリーノの腕を掴んで引きずるようにその場を離れた。


 校舎が近付くにつれ、目に入るカップルの数は更に増えてゆく。


 中等部の本校舎が五人の目に大きく映り始めた頃、今度はトロンが立ち止まり、何かをジッと見つめた。

「トロンどうした?」

 ムチャ達がトロンの視線の先を見ると、そこには小さなテントが立っており、テントの入り口からはズラーッと女子生徒達が列を作っている。そしてテントの前に立てられている立て札には「恋愛占い(無料)プレオープン中」と書かれていた。どうやらあれも学園祭の出し物の一つらしい。明日の本番を控え、練習や明日忙しい学生達のために、前日からプレオープンをする屋台や出し物も多々ある。


「女子って占いとか好きだよなぁ」

 ムチャは数えきれぬ程の行列を作っている女子生徒達を見ながら呟くと、列の中に見覚えのある顔を見つけた。


「占いかぁ、絶望的って言われたらどうしよう……」

「大丈夫大丈夫! 占いは当たるもホッケ、当たらぬもホッケーってプレグが言ってたよ」

「ホ、ホッケー?」


 聡い方々ならもうお察しであろう。亜人ガールズ、もとい、ニパとマリーナである。


「おーい!」

 ムチャが二人に向かい声をかけると、二人はオーバーなまでに飛び上がって驚いた様子を見せ、ムチャ達五人に挨拶をする。


「ニパ達も来てたのか」

「うん。せっかくのお祭りだから今日も明日も楽しもうと思って! 明日は二人のステージも見に行くからね!」

「おう! ところで、お前恋愛占いとか興味あるのか?」

「ううん、私じゃなくてマリーナが……」

 ニパがそこまで言いかけると、マリーナがらしくない怪力でニパの手を握りしめた。

「うぎっ!? そうそう! 私も年頃の女の子だからね。近いうちに恋人ができるのか占って貰おうかなぁって思って。マリーナはあくまでついでだから、ついでだからね!」


 ムチャがマリーナを見ると、マリーナは顔を赤らめながらブンブンと首を縦に振りまくる。

「そ、そうか。それにしてもすごい行列だよな」

「うん。なんかここの占いが凄いらしくてね、占って貰ったらすぐに恋人ができるらしいんだよ」

「すぐに!?」

「うん。きっと運命の人に出会える方法とか教えてくれるのかも!」

 皆が胡散臭いと思いながらテントの方に目をやると、ちょうどテントから一人の女子生徒が出てくるところであった。女子生徒はどこか幸せそうな顔をしており、ポケーっと心ここにあらずな表情をしている。そして、彼女は校舎に向かい歩いている一人の男子生徒に声をかけると、しばらく見つめ合い、互いに手を握ってどこかに歩いて行った。


「すっご〜い!」

 それを見て、ニパは感嘆の声を上げる。

 すると、いつのまにかムチャの隣に来ていたトロンが言った。

「やめた方がいいかも」

 その目はいつも通りの垂れ目であったが、どこか険しさが浮かんでいる。

「あの中から、凄い魔力を感じる」

「魔力?」

「うん」

 トロンが頷くと、突如テントの幕が大きく開いた。

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