トロンvsエスペリア2

 エスペリアは再び手に魔力を込め、火炎の魔法を放つ。それをトロンは障壁で防ぐ。ここまでは先程の再現だ。

 しかし、エスペリアには考えがあった。障壁に防がれた火炎がドーム状となり、トロンの周囲を包み込んだのだ。

「これでもう逃げられませんわよ!」

 後は障壁解除の魔法を放てばトロンは丸焼きにされてしまう。

 エスペリアの片手から障壁解除の魔法が放たれる。

 すると、炎の中でトロンはニヤリと笑った。

「障壁解除、破れたり」


 パシュン!


 障壁解除の魔法は、確かにトロンの張った障壁に命中した。しかし、障壁は消えない。

「なぜですの!?」

 エスペリアは再び障壁解除の魔法を放つ。魔法はトロンの障壁へと命中する。しかし、またしても障壁は消えなかった。

「どうなっていますの!?」

 エスペリアは何発も連続して障壁解除の魔法を放つ。そしてその全ては確かにトロンの障壁に命中するのだが、いくら命中しようともトロンの障壁は消えないのだ。

 火炎のドームを作りながら障壁解除の魔法を連発していたエスペリアは息切れを起こし、手から火炎の放出が止まった。

 炎が消え、障壁に包まれたトロンの姿が現れる。

 半透明の障壁の中にいるトロンは「暑い暑い」と言いながら、汗だくになった顔をパタパタと仰いでいた。

「はぁ……はぁ……なぜ……」

 エスペリアは肩で息をしながら、トロンを包む障壁をジッと見つめた。

 そしてそのカラクリに気付く。

「多重障壁……」

 そう、トロンは薄い障壁を何枚も重ねて張っていたのだ。これならば障壁解除の魔法が命中しても、解除されるのは表面の一枚のみである。


「ミルフィーユって、一枚ずつ剥がして食べるのが美味しいよね」

「み、ミルフィ……」

 エスペリアは魔力の枯渇と脱力感でぶっ倒れそうになった。しかし、それはエスペリアのプライドが許さない。

 するとトロンが、「今度は私の番ね」と言い、杖に魔力を込める。


 ポンポンポンポンポン


 トロンの周囲に、魔法の羽箒とマジックハンドが大量に出現した。

「いけ」

 トロンがエスペリアに杖を向けると、羽箒とマジックハンドの大群が不審な動きをしながらエスペリアへと襲いかかる。

「障壁……間に合わな……いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!」

 マジックハンドがエスペリアの脇腹を鷲掴みにした。その時である。


 バチン!


 マジックハンドが音を立てて弾かれた。


 バチバチバチバチバチン!!


 他のマジックハンドも羽箒も、エスペリアの体に触れた側から次々と弾かれてゆく。

「あれ?」

「あ、そうでしたわ」

 そう、エスペリアは勝負に夢中になってすっかり忘れていたが、彼女は魔弾きのアイテムを三つも身につけていたのだ。それらが正常に効果を発揮し、彼女の身をトロンのくすぐり魔法から守ったのである。

「ほ、ほほほ……おーっほっほっほ!!」

 エスペリアは冷や汗を流しながらババくさい高笑いをした。

「備えあればなんとやらですわ!!」

 そしてエスペリアはローブの中に隠していた魔力を回復する薬のビンを開け、グビグビと飲み干す。


(ズルい……)

 その場にいた誰もがそう思った。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る