トロンvsエスペリア3
(うふふ、あの子の魔法は私には効かない! 後は休みながらじっくり魔力を溜めて、あのミ、ミルフィーユ障壁を一気に貫けば……)
エスペリアはビンを放り投げ、袖で口元を拭う。
魔法が効かないのであれば自身の敗北はありえ無い。彼女はそうたかをくくっていた。
(ズルいなぁ)
トロンはそう思いながらエスペリアに勝利する方法を考えていた。トロンは大地の魔法で床を操り、腕の形にして物理的にエスペリアを円から放り出すという方法を思いついたのだが、どうやら演習場の床は安全のためなのか中まで魔法を通さない材質でできており、トロンの魔力を受け付けてくれない。
感情魔法を使えば魔弾きの衣を貫通させる事ができるであろうが、大怪我をさせてしまうかもしれないし、なんだかズルい気がしてトロンは使いたくなかった。
(ムチャだったらどうするだろう)
トロンはそう考えてみる事にした。
コンビで戦う時のブレイン役は魔法使いであるトロンであるかと思いきや、実はこれまで生み出した珍妙な作戦や戦術は、「強制爆笑陣」や「古竜聖火拳」等、殆どムチャが編み出してたものであった。
(ムチャなら……そうだ)
そしてトロンはエスペリアを倒す方法を思い付く。
トロンがエスペリアを見ると、エスペリアは悪そうな笑みを浮かべて、左手に炎の魔法を、右手に障壁解除の魔法を溜めている。彼女の魔力であれば、限界まで高めればミルフィーユ障壁も貫通されるであろう。トロンは早速作戦に移った。
まずトロンは自らの鼻をつまみ、杖に魔力を込めて鼻声で呟く。
「はへほ(風よ)」
すると、トロンからエスペリアの方へ、生暖かいそよ風が吹き始めた。
「ふん、こんなそよ風で何をしようと……うっ!?」
突如、それまで余裕の笑みを浮かべていたエスペリアの顔が青ざめる。いや、エスペリアだけではなく、トロンの風下に立つ取り巻き達の顔も一斉に青ざめた。
うっ……!?
これは……
何これ!?
「「クッサーーーい!!!!」」
そう、トロンが魔法で生み出した風は、とんでもなく臭かったのだ。その臭いは、かつてトロンが旅の途中で立ち寄った村で食べた、発酵させた魚の塩漬けの臭いを再現したものであった。それはムチャとトロンが嗅いだことのあるどんなものよりも臭く、間近で匂いを嗅いだムチャは気絶しそうになった程だ。鼻をつまみながら食べたその塩漬けは、味は美味しかったのだが、その時に服に付いた臭いは一週間も落ちなかった。
うぇ……
ぼぇ……
取り巻き達は嗚咽しながら鼻を摘み、全力でその場を離れる。しかし、エスペリアはその場から逃れる事もできず、両手に魔力を溜めてているために鼻をつまむ事もできない。
「むーっ! ふむーっ!」
エスペリアは何とか嗅覚を遮断しようと顔の筋肉をグリグリと動かしながら、あまりの臭さに涙をポロポロと流した。魔弾きの道具は、炎や雷や呪いなどは防げても、臭いまでは防げなかったのだ。
「むふ! むっふむー! ふむっふー!」
エスペリアは臭いを取り込まぬように口を閉じたまま抗議をする。
するとトロンは涼しい顔で言った。
「ひょっと、なにひってるかわはらない(ちょっと、なに言ってるかわからない)」
「ぶはっ! その臭いを止めなさいって言ってるのよ!! あっ!?」
エスペリアが叫んだその瞬間、彼女の口内に鮮烈な激臭が思いっきり吸い込まれる。激臭は口内から進入し、一瞬で肺を満たす。それと同時に脳天を突き抜けるような刺激が鼻腔を突き抜け、エスペリアの意識を刈り取った。
「か……かぺ………………………オロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロオロ」
硬直したエスペリアは今日の昼食を残らず吐き出し、白目を剥いて気絶した。
こうして、トロンは実に優雅にエスペリアとの魔闘に勝利したのだ。
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