転職!?

 ムチャとトロンがソドルとゴドラをノックアウトしてしまってから数日後、アレル闘技場のリングの上ではニパとプレグが前座として観客達にショーを披露していた。ショーは既に終盤に差し掛かっている。

 ニパが三つのボールをポンポンとジャグリングし、その合間に一回転したり宙返りをしたりする。するとプレグが、空中を舞うボールに手をかざし、呪文を唱えた。

「氷結せよ!」

 プレグの手から放たれた三発の魔法は、ニパが操る玉に見事に命中し、ボールを氷の球に変える。

「冷た! 冷た! 冷た!」

「ニパ、えーがーおー」

 ニパはキンキンに冷えた氷の球を、引きつった笑みを浮かべながらジャグリングし続ける。

「はい!そこで高く!」

 プレグが合図をすると、ニパは三つの氷の球を上空高く放り投げた。そして球が最高点に達した時、プレグがパチンと指を鳴らす。すると氷の球が弾け、大きな氷の花が三つ、闘技場の上空に咲いた。

「ニパ!」

 プレグがリングに手をかざし魔力を込めると、ニパの足元から石の柱が出現する。ニパはそれに合わせて上空高くまで跳躍し、三連撃で氷の花を粉砕した。砕かれた氷の花弁は観客席の方へ飛び、観客達は思わず目を閉じる。しかし、いつまで経っても氷の破片は当たらなかった。


 ヒヤッ


 観客達の肌にひんやりとしたものが触れる。観客達が恐る恐る目を開けると、そこには雪が舞っていた。


 おー! 雪だ!

 今回の前座はすげーな!

 この前の漫才は酷かったもんな


 季節外れの雪が舞い散る中、プレグとニパに盛大な拍手と歓声が送られる。

「いえーい! どうもどうも!」

 ニパはリング上を飛び回りながら観客達に愛想を振りまき、プレグは恭しく礼をした。

「大成功だねプレグ!」

「そうね、前の前座が酷かったからハードルが下がってたのもあるわ」

 二人は手を繋ぎ、もう一度観客達に頭を下げる。盛大な拍手が再び二人を包んだ。しかし礼をしたプレグの顔にはパッとしない表情が浮かんでいる。

「でも納得いかないのは、私達がその酷い前座の前座って事よ」


 その頃、二人は闘技場内にある薄暗い控え室で額を突き合わせていた。トロンは上半身裸で椅子に座るムチャの拳を両手で包み込む。

「いい? ムチャ、あなたは最強よ。あなたならやれる」

「俺は最強……」

「あなたは最強」

「俺は最強」

「あなたは最強」

「俺は最強!!」

「カレーには」

「らっきょう!」

「音が」

「反響!」

「銃の」

「薬莢!」

「会場は」

「熱狂!」

「死ぬも」

「一興!」

「いいよー、ムチャいいよー、ムチャは私の育てたファイターでも最強よー」

「ウラー!」

 そんなやり取りをしていると、控え室の扉が開き、闘技場の係員が入ってきた。それは先日ムチャ達をリングから下ろした係員の一人だ。

「何やってんだお前ら?」

「闘技者ごっこ」

「ごっこも何もお前らは闘技者だろうが……こんなに若くてふざけた闘技者は初めてだよ」

 係員は呆れてため息をついた。

「いいか? いくら刃の潰してある剣や槍を使うとはいえ、ふざけてたら本当に怪我するぞ。ガキが怪我する所なんて見たく無いからな」

 それを聞いてムチャはニヒっと笑った。

「うん、忠告ありがとよ。あんたいい人だな」

「うるさい、出番だ、行くぞ」

 係員は少し照れながら二人に手招きをする。二人は立ち上がり、闘技場のリングへと向かった。

「いいよー、ムチャいいよー」

「おで、敵、倒す、敵、食べる」

「黙って歩け……」

 係員は二人を案内しながら再びため息をついた。


 なぜこんな事になったのかと言うと……

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