宿屋にて

 その日の夜、宿屋の一階にある食堂で、ムチャとトロン、そしてプレグとニパのコンビは四人でテーブルを囲んでいた。

「あんた達ほんっとにバカねぇ」

 プレグはこれ以上無いくらい呆れた顔をして、ワイングラスを煽った。

「だってよぉ……」

「だってじゃないわよ。そんな都合の良いものがあるわけ無いでしょう? 仮にあったとしても、まず本当に無くならないのか証明させるでしょ普通」

 ムチャはぐうの音も出なかった。いや、お腹のグーの音が鳴った。

「ねぇ、本当にスープしか食べないの? 私のチキン半分分けようか?」

「いや、いいんだニパ。これは無駄遣いをしてしまった俺達なりの戒めだ」

 そう言ってムチャは下唇を噛みしめる。昼間の出来事がよほど悔しかったらしい。

「ダメよニパ、バカにエサ与えたら調子乗るから。トロンは私のチキン半分食べる?」

「うん、ありがとう」

 トロンはプレグの皿からチキンを取った。

「って食うのかよ!」

「だってお腹空いたし」

「ニパ、やっぱり俺にも分けてくれ……」

 ムチャはニパからチキンをもらい、むしゃむしゃと食べ始める。

「で、あんたらこれからどうするの?」

「うーん、特に考えてないな。プレグ達は?」

「私達はしばらくこの街に滞在するわ。ショーの仕事が決まったから」

「へぇ、どっかの劇場か?」

「いいえ、しばらく前座を務めるはずだった芸人が初日でクビになった闘技場よ」

「マジかよ!」

「マジよ。せっかくあんた達に仕事譲ってやったのに結局私達がやる事になるなんてね」

「二人とも観に来てね!」

 ムチャは悔しそうにチキンの骨をガリガリ噛んだ。

「で、あんたらは? この街出るならここでお別れ?」

「えー、まだ一緒にいようよー」

「うーん……でもなぁ。どうしようか?」

「うーん……」

 二人が悩んでいると、四人のテーブルにメガネをかけた細身の男が近付いて来た。メガネの男はムチャとトロンに声をかける。

「あらー、あなた達こんな所にいたのね、探していたのよー」

 四人は女口調で話す男を訝しげに見た。

「あんた達知り合い?」

「ううん」

「知らない」

 二人はフルフルと首を横に振る。

「そうよね、あなた達は私を知らないわよねー」

 男はゴソゴソとポケットを漁ると、一枚の長方形の紙を取り出した。そしてそれをムチャに差し出す。

「アレル闘技場プロデューサー……マニラ・マニラ?」

 二人は男の顔を眺めた。


「今日は試合をめちゃくちゃにしてくれてどうも」


 男の目がメガネの奥でギラリと光った。

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