入寮
事務所で入学手続きを終えた二人は、ベローバに貰った校内地図を頼りに、これから寝泊まりする寮へと向かう。
「しかし、地味に遠いな」
「うん……」
第一校舎の校門を出てから広い山道を歩くこと、既に二十分が過ぎていた。
すると、山の合間にようやく目的地らしき建物が見えた。
しかし、建物は少し離れた所に二つ建っており、それぞれの建物に向かう道は左右に分かれている。どちらも校舎と同じくらい大きいのだが、左の道の先にある建物は白く綺麗で、右の道の先に建っている建物は少々ボロい。
二人は地図を覗き込む。
「男子寮は……右か……」
「よし、左」
ムチャはガクッとうなだれ、トロンは小さくガッツポーズをした。
「でも、住むところまで違うとはなぁ」
「規則だから仕方ないよ」
「トロン、一人で大丈夫か?」
ムチャは心配そうな顔で問いかける。トロンは寺院を抜け出してから、一人で行動する事はほとんど無かったし、寺院にいた頃も寺院からは一歩も出ずに生活していたのだ。更にトロンはどこか他人とはズレている所もある。ムチャが心配するのも無理はない。
すると、トロンは真剣な顔で言った。
「ねぇ、私達、今まで一緒にいる時間が長過ぎたと思うの」
「……え?」
「旅を始めてから寝るときも一緒だし、起きてからもずっと一緒、食べるものも一緒だし、着替えまで見られたし」
「着替えどころか俺は乳まで揉まれたよ」
「でもね、それじゃダメだと思うの。私達、少し距離を取ろう」
「それ……どういう意味だよ?」
ムチャは不安げな表情を浮かべ、トロンは少し寂しげに顔を伏せた。ムチャはまさかこんな所で解散を言い渡されるのでは無いかと思い、背筋を強張らせる。
「だって……私達ずっと一緒にいて同じ生活してるから……」
「……から?」
ムチャはゴクリと唾を飲む。
「似たようなネタばっかり浮かぶんだよ」
「確かに!」
「ちょっと違う生活をした方が、新鮮なネタが浮かぶかもよ」
「さすがトロン! いい事言うじゃないか! よーし、新しい生活で、新しいネタをじゃんじゃん作るぞ!」
「おー」
やはり彼らはお笑いバカである。
二人は固く握手をして別れ、それぞれの寮に向かって歩き出した。
新たなるネタを求めて。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます