入寮・ムチャの場合
ムチャは荷物を抱えて道なりに進み、大きな木造の建物の前に辿り着く。建物は大きく立派な見た目ではあるが、古めかしく、おどろおどろしく、まるで巨大なお化け屋敷のようである。
建物の入り口に掛けてある看板には、「グリバー学園中等部第一男子寮」と書かれていた。
ムチャはゴクリと唾を飲み、寮の中に入った。
入り口を潜ってすぐ横には事務所があり、ムチャが事務所の窓口を覗き込んで声をかけると、事務所の奥でタバコをふかしていた大柄な男が窓口に出てくる。
「こ、こんにちは。今日からお世話になります」
ムチャが男に挨拶をすると、男はムチャを上から下までジロリと睨みつけた。そして、
「寮長のガーデムだ。部屋は二階の角、問題は起こすな」
とだけ言うと、再び事務所の奥に引っ込んだ。
「えらい迫力ある寮長だったなぁ……」
寮の内装は外見と違わずボロボロで、薄暗く、天井の角には蜘蛛の巣が張っている。
ムチャがギシギシと床板をきしませながら廊下を進むと、沢山のテーブルが並べられた広い場所に出た。奥にカウンターと厨房が見える事から、そこはどうやら食堂兼ホールであるらしい。ホールはガランとしていたが、一つのテーブルに二人の少年が座っているのが見えた。
「お、きたきた!」
少年達はムチャを見ると、駆け寄って来て声をかける。
「君、今日入寮予定のムチャ君だろ?」
そう言ったのはひょろりと背が高く、メガネをかけた少年だ。
「俺達はお前のルームメイトだ。こっちのメガネがハリーノ、俺はレオ。よろしくな!」
レオと名乗った背が低くやんちゃそうな少年は、ムチャの右手を取ってブンブンと振り回す。
「寮長に引越しの手伝いするように頼まれたんだけど、荷物は表かな?」
「いや、今持ってるだけだけど」
ムチャは眼前に荷物を掲げる。
「少なっ! なら話は早いな。部屋に案内するぜ」
レオとハリーノに案内され、ムチャは階段を上り、廊下を進んだ角の部屋に辿り着く。ハリーノが扉を開けると、ムチャは部屋の中に入った。
そこは十畳程の広さがある部屋で、ベッドと勉強机が三つずつ並べられている。
ドアから一番近い机には、本が所狭しと並べられており、机の横にも本が雑に積み上げられている。一番奥にある机には、刃物や矢がごちゃ混ぜに乗っていて、壁際には剣も数本立て掛けてある。そして真ん中にある机には、新品の教科書と、グリバー学園の制服であるピカピカのローブが置かれていた。
「いやー、散らかってて悪いな」
「これでも掃除したんだけどねぇ。真ん中の机とベッドを使って」
ムチャはベッドにカバンと荷物を入れた袋を放り出して腰掛けた。そして室内をキョロキョロと見渡す。
その様子を見たハリーノはレオにひそひそと耳打ちをした。
「ムチャ君、寮がボロいから驚いてるのかな?」
「まぁ、うちの寮は数ある寮の中で一番ボロいからな……」
二人はそう思っていたが、実は逆であった。
野宿やボロ宿に慣れていたムチャは、むしろ「しばらくこんな広い部屋に住めるのかぁ」と喜んでいたのだ。
ただ、いつもそばにいたトロンがいない事が少し落ち着かなかった。
「まぁ、そうがっかりするなよ! すぐに慣れるさ。ほら、寮内を案内するから行こうぜ」
レオに促され、ムチャはベッドから立ち上がる。
そして部屋から出ようとした時、レオとハリーノの机の上にカードの束が置かれている事に気付いた。
「あ、魔物カード」
それはムチャとトロンもコレクションしている、魔物の絵が描かれているカードであった。
「え? ムチャ君も集めてるの?」
ムチャはカバンをガサガサと漁り、カードの束を取り出す。
「おぉ! ちょっと見せてくれよ!」
レオとハリーノはムチャからカードの束を受け取り、パラパラとカードをめくり始める。
「これは……ムイーサ限定のゴールデンジャンボコウモリだ!」
「すげぇ! サイクロプス(斧)もある!」
テンションを上げる二人を見て、ムチャは嬉しくなった。そして再びカバンを漁り、今度は先ほどより薄いカードの束を取り出す。
「こういうのもあるぞ」
それはムチャが密かに集めていた、セクシーなサキュバスカードの束であった。
二人はそれを見てゴクリと唾を飲み込む。
「ムチャ、いや、ムチャ様と呼ばせてくれ」
こうして、入寮十分でムチャに友達ができた。
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