キングヨロイトカゲクイーン
二人は先程とは逆に流れる人混みを駆け抜けていた。
「でかい! まるで怪獣じゃねぇか!」
土煙の発生源までにはまだ距離があるのに、暴れ回るクイーンの姿が屋根越しにちらほらと見えている。
「ヨロイトカゲの雌は、雄の何倍も大きい。あれは多分群れのボスのクイーン」
「キングヨロイトカゲクイーンって矛盾してるじゃねぇか!」
人の流れに逆らいながら走るのは難しく、二人は横道に入った。
「このままじゃ怪我人が出るぞ!」
「飛ぶ。ムチャ、捕まって」
トロンはムチャの腕を掴み、飛翔魔法で飛びが上がった。遠目に見えるクイーンの姿は、全長約十五メートルはありそうだ。村を囲う柵を破壊して、建物をまるでジオラマのように踏み潰している。
「ムチャ、あそこ!」
トロンが指差した先を見ると、クイーンの進行方向に一つの小さな人影が見える。
「おかぁさーん!!」
小さな人影は幼い子供であった。逃げる途中で母親とはぐれたらしく、泣きながらフラフラと彷徨っている。このままではクイーンに踏み潰されてしまうであろう。
「まずい、急ぐぞ!」
トロンが杖を飛ばそうとしたその時、二人は背後から大きな衝撃を受けた。
不意打ちを喰らった二人は落下し、トロンが咄嗟に出した魔力のクッションによりなんとか家屋の屋根の上に着地する。
「なんだ今のは!?」
「今のは魔法……一体誰が……」
二人は辺りを見渡したが、攻撃の主の姿は見あたらなかった。
「それよりあの子を」
「ちくしょう! 間に合え……喜の術」
ムチャは気を貯め、屋根伝いに走り出す。
「乱走!!」
ムチャが気を解放すると、脚から勢い良く黄色いオーラが噴き出した。
「ひぃぃぃぃやっほーい!!」
術の影響でテンションがおかしくなったムチャが、凄まじい速さで子供に向かって馳ける。だが、先程の攻撃によるタイムラグで間に合うかどうか危うい。
クイーンが子供に迫る。そこに建物の陰からペノが飛び出してきた。
「ペノさん!?」
ペノは子供を抱えて逃げようとするが、子供を抱え上げて振り返ると、ペノの目前には大きく広げられたクイーンの口があった。
「やばい! 間に合わない!」
「いやぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」
ズラリと並んだ鋭いクイーンの牙が、ペノに触れる瞬間。ペノは覚悟を決めて目を閉じた。
しかし、数秒経ってもクイーンの牙がペノに触れる事はなかった。
ペノがおそるおそる目を開けると、そこには見覚えのある大きな背中があった。背中の主はクイーンの口を閉じさせぬように、両腕でクイーンの顎をがっしりと支えている。
「あれは……」
「ミノさん!!」
ペノの窮地を救ったのは、あのミノさんであった。
「ペノさん、お怪我はありませんか?」
ミノさんは振り返らずにそう言った。
「は……はい!」
そこにムチャが辿り着く。
「ミノさん! そのまま押さえてて!」
剣を抜いたムチャの全身から黄色いオーラを迸る。
「喜剣……狂喜乱舞!!」
ムチャの剣がスラスラと舞った。ムチャがクイーンの尻尾まで駆け抜けると、クイーンの甲皮がボロボロと剥がれ落ちる。
「業火よ」
トロンが放った火球が、むき出しになったクイーンの胴に当たり、クイーンを吹っ飛ばした。
「ミノさん! とどめを!」
「ぬおおお!!」
両手が自由になったミノさんは、背負った斧を手にし、大上段に構えて振り下ろす。
「ミノタウルスマッシュ!!!!」
ミノさんの斧がクイーンの胴と頭をスッパリと切り離す。そしてクイーン体が音を立て地に伏した。
「ほあぁ……」
ペノがその場にペタリと座り込むと、斧を背負い直したミノさんが手を差し伸べた。
「ペノさん、無事で良かった」
「ミノさん……助けてくれてありがとう」
そこにムチャが割って入った。
「ミーノーさーん!! ナイス! マジかっこ良かったよ! 最高! でもミノタウルスマッシュってなんだよ!?」
テンションのおかしいムチャはミノさんに抱きつき騒ぎ立てる。
「お……おい、ムチャ坊よ」
その様子にミノさんは困惑した。
そこにトロンがやって来て、ムチャにベチンと強めにビンタをする。
「はっ……あれ?」
ムチャは正気に戻った。
「ミノさん、助かりました。でもどうして村に?」
トロンが聞くとミノさんは答えた。
「なぁに、トロン嬢「酒場に水を飲みにきた」それだけさ」
それを聞いてトロンはニコリと笑った。
「ムチャ、行こう」
トロンはムチャの手を引いた。
「え? 何で?」
ムチャはミノさんと話したかったようだが、ペノを見つめるミノさんを見て空気を読んだ。
ミノさんがこれからどのような決断をするのかはわからない。しかし、ミノさんが今ここにいるという事は、何かしら前に進もうとしての事なのであろう。
結果はどうであろうと、二人はミノさんが前に進もうとする事は良い事だと思った。そして、ミノさんに心の平穏と幸せが訪れる事を願った。それが今日でなかったとしても。
ドズッ
立ち去ろうとする二人の背後から、何かが突き刺さる音が聞こえた。
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