クリバー学園の怪談2

 ムチャは寮を出て、ノコノコと学校へと向かう、そして学校の校庭に着くと、案の定フェアリーボールクラブの面々が練習をしていた。

「あれ?」

 校庭でボールを追いかけるメンバーを見て、ムチャはある事に気付く。校庭で練習をするメンバーの中に、見覚えのある人物を見かけたのだ。その人物は、犬のような耳と尻尾をぴょこぴょことさせながら、ボールを持って校庭を疾走していた。


「ニパじゃん」

 ニパがディフェンダー達をすり抜け、得点を決めると、ちょうど休憩時間になったようだ。メンバーがわらわらと校庭の端へと歩いてくる。

 ムチャが校庭に下りると、皆が「元参謀お疲れ様です!」と挨拶をした。ムチャは皆に軽く手を上げて挨拶を返し、タオルで汗を拭うニパに背後から声をかける。

「よう、ニパ、フェアリーボール始めたのか」

 ムチャの声に振り返ったニパの顔に、爽やかな笑顔が弾けた。


「ムチャ先輩っ! そうなんだ、友達に誘われて仮入部したんだ!」

「そうか、友達できて良かったな。それから、無駄に後輩キャラが似合うな」

「えへへ、ありがとうムチャ先輩っ」

 ニパはわざとらしく上目使いでムチャを見る。

「うん、それはちょっとやりすぎだ」

 そんなやりとりをしていると、また水桶に浸っていたのか、びしょ濡れのマリーナがニパの元へやってきた。

「ニパちゃん、いいシュートだったよー。あ、参謀! お疲れ様です! ……この前はすいません」

 ムチャに気付いたマリーナは、先日の事を思い出し、ぺこりと頭を下げる。

「いやいや、こっちこそ悪かった。あのコンパはあいつらも反省してるから」

 すると、ニパがキョロキョロとムチャとマリーナの顔を見比べた。

「あれ? 二人知り合いなの?」

 ムチャもマリーナとニパの顔を見比べた。

「あ、もしかして友達って、マリーナ?」

 二人は「世間って狭いなぁ」とつくづく思った。


 ニパがいた事ですっかり忘れていたが、マリーナを見て、ムチャは学校に来た目的を思い出す。

「あ、そうそう。マリーナ、今夜暇?」

 急な問いにマリーナはビクッとし、おずおずと答えた。

「は、はい! 暇ですが……何か?」

 なぜだかマリーナは少しドキドキしているようだ。マリーナの白い頬が僅かに赤く染まる。

「もし、良かったら……」

「良かったら?」

「今夜、一緒に……」

「一緒に?」

「……旧校舎に肝試しに行こう」

 赤かったマリーナの顔が急激に青くなった。


「ひ、ひあぁぁぁぁ、肝試しですか!? 私怖いのダメなんですぅぅぅう!!」

 マリーナはどうやら怖いものがダメなようだ。

 ニパにしがみつくマリーナを見て、ムチャのイタズラ心に火がついてしまう。ムチャはニヤリと笑い、要らぬ時にだけ発揮される演技力を発揮し、おどろおどろしい声で語り出した。


「真夜中の旧校舎で……」

「ひあぁぁぁぁ!」

「人気のない教室から……」

「ひあぁぁぁぁ!!」

「ほんのりとチーズとトマトの焼ける香りが……」

「ピザァァァァァア!?」

 どうやらマリーナは本当に怖いものが苦手らしい。しがみつかれているニパまでブルブルと振動して、ちょっとした残像のようになっている。

 ムチャはだんだん面白くなり、もっとマリーナを怖がらせてみたくなった。

「これは本当にあった話なのですが……」


 スパーン!


 ムチャが語り出すと、その後頭部を何者かの手が叩く。振り返ると、そこにはダブルお団子ヘアガールリャンピンが立っていた。

「ちょっとー、うちの参謀と新エースに変な事しないでよ!」

「いてて……別に変な事なんかしないって」

 マリーナの悲鳴を聞いて駆けつけたリャンピンは、腕を組みプンスカと怒っている。マリーナは極度の怖がりなようだし、リャンピンも現れたとなっては、肝試しへの勧誘は無理そうだ。

 ムチャは肝試しへ誘うのを諦めて、マリーナとニパに「頑張れよー」と一声かけると、トボトボと寮へ帰る事にする。


 そして、校庭から去り際にふと閃いた。

「女子三人か……うーん。まぁ、いいか」

 ムチャは引き返し、リャンピンの肩を叩いた。

「リャンピン、怖いの大丈夫?」

 リャンピンはキョトンとしてムチャの顔を見つめた。

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