アレル闘技場の冒険
とある闘技場にて
クフーク村から南に数百キロ。ナスーナ地方にあるアレルの街には、ナスーナ地方の猛者達が集まる闘技場がある。
大きさはそれほどでも無いが、これまで数々の名勝負が生み出されてきた伝統ある闘技場だ。
その闘技場には本日行われる試合を観戦する為に、近隣の町から多くの人々が集まっていた。
「レディ〜スアンドジェントルメン! 本日はアレル闘技場にお集まりいただき誠にありがとうございます!」
闘技場の四角いリングの中心では、拡声の魔法をかけた司会者が、大仰な仕草と声で観客達に呼びかける。
「本日行われる試合は二対二のタッグマッチ戦となっております! 試合まではしばらくお時間がありますので、それまでは前座の方をご覧になってお待ち下さい! 前座のお二人どうぞー!」
観客達が司会者に拍手を送ると、司会者は手を振りながら袖に引っ込んだ。すると、今度は入れ替わりに一組の少年少女がひょこひょこと闘技場の中心に現れる。どうやら前座を務めるのはこの二人のようだ。
「どうもー! ムチャです」
「トロンです」
「「よろしくお願いします」」
二人はペコリと礼をして観客に大きく手を振った。
「いやー、お客さん一杯ですね」
「そうですね」
「みんな闘技場へ血肉湧き踊る
「今日はあたたかいですからね」
「それは関係無いだろ!」
「闘技者は試合が終わったら銭湯にでも行くんですかね? 戦闘だけに」
「ダジャレじゃねぇか!」
「今日はあたたかいから汗かきますもんね。お客さん達も是非行きましょう」
「こんなに一杯銭湯に来たらお湯が無くなっちゃうよ!」
「みんな試合にお金賭けてるんですよね」
「それが闘技場の醍醐味ですからね」
「私もかけましたよ」
「そうなんですか?」
「かけ湯を」
「だからそれ銭湯じゃねぇか!」
ザワ……
熱気溢れる闘技場の温度が徐々に下がってゆく。
(……トロン、新ネタだ)
(うん)
「あっ、お客さんの中に生き別れた兄さんが」
「えっ? どこに!?」
「成仏して下さい……」
「死に別れてるじゃねぇか!」
シーン……
(もう、あれだな)
(うん)
「えー……ショートコントやります!」
ムチャとトロンが盛大に滑っているのを、プレグとニパは客席から眺めていた。
「全く……何やってんのよあいつら」
プレグは売店で買った、アレル銘菓のアレル煎餅をつまみながら苦い顔をしている。
「やっぱりあの二人面白いね!」
「あんたマジで言ってるの?」
「えー、面白いじゃん。あっ! あれ見て!」
ふと闘技場を見ると、ムチャとトロンに近付くマッチョな二人の男がいた。
「オラオラどけぇ! オレ達の試合の前に寒い漫才なんかしてるんじゃねぇぞ!」
ムチャが闘技場に乱入してきた男の一人に突き飛ばされる。
「いたたた……ちょっと! まだネタ中だよ!」
「うるせぇ、せっかく燃えてたのに冷や水ぶっかけやがって! さっさとうせろ!」
乱入してきた男はしっしっと犬を追い払うようにムチャに手を振った。
「おーっと! ここで本日のメインイベンター、ソドルとゴドラペアの乱入だー!」
実況席に座っている司会が興奮した声を上げると、男達は観客に向けてマッスルなポーズを決めた。
「この二人、合わせて身長四メートルを越える巨漢のコンビでございます! 斧使いのゴドラ、そして肉体強化魔術の使い手ソドル、二人はその強靭な肉体でこれまで多くの闘士達を地につけて来ました。果たして今日彼らの餌食となる対戦相手は一体誰なのか!?」
観客達から歓声が上がる。ゴドラとソドルの登場により、ムチャとトロンはすっかり観客達に忘れられていた。
「あの……オレ達まだネタを……」
ムチャがゴドラの背中をツンツンとつつく。
「あ? お前らまだいたのか。殺されてぇのか?」
ゴドラが凄むと、ムチャは首を横に振った。
「殺されたいんじゃなくて、笑わせたいんだ」
「あ?」
気がつくと、ゴドラとソドルの周りにはポワッと光を放つ魔法陣が描かれていた。そしてムチャの体から黄色いオーラが立ち上る。ムチャはしゃがみ込むと、魔法陣に手を当てた。
「「強制爆笑陣!!」」
ムチャとトロンが声を揃えて叫ぶと、魔法陣は眩い光を放ち始める。
「え? 何これギャハハハハハハハ」
「わ、笑いがガハハハハハハハハハ」
すると、ゴドラとソドルは腹を抱えて爆笑し始めた。
笑いながら闘技場を転がる二人を見て、観客達は唖然とする。
「こ、これはどうなっているのでしょうか? 闘技者の二人が笑い転げております!」
司会者は目を丸くして言った。
「いやー、このお二人随分ゲラのようですね」
「それでは次のネタを……」
ムチャとトロンが笑い転げる二人をほっといてネタを続けようとすると、係員達が闘技場に上がって来て、二人にリングから下りるように促す。望まれていないのにネタを続けるわけにはいかず、二人はしょんぼりしながら闘技場を下り、そして関係者各位にしこたま怒られたのだ。
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