ミノさんの説得

「それじゃあさ、まずはペノさんと仲良くなる所から始めなよ」

「話した事はあるの?」

 ミノさんは新しいムカデ酒の瓶を開けた。

「あるぞ、むしろよく話す」

「どんな話をするの?」

 トロンが聞くと、ミノさんはふと考えた。

「オススメのメニューとか」

「それから?」

「水のお代わり貰えるかとか」

「それから?」

「お会計頼むとか」

「それただの客と店員のやりとりじゃねぇか!」

「そうだ。だって客と店員の間柄なのだからな」

 ミノさんはなぜか胸を張った。

「じゃあ、まずは友達にならないとね」

「友達なぁ……」

「村の人とは仲良いんでしょ?」

「うむ、狩人や林業をしてる奴とは仲が良いな」

「じゃあ、ペノさんと共通の友達を通じて仲良くなればいいよ」

 ミノさんは再び考えた。

「ふむ。それならペノちゃんの旦那のダレンががいいかな」

 それを聞いたムチャとトロンは硬直した。

「ミノさん。今何て言った?」

「ダレンがいいかなって」

「ダレンさんは何だって?」

「ペノちゃんの旦那だ」

 ムチャは額に手を当てた。

「それダメなやつだろ!」

「ダレンはいい奴だぞ」

「違うよ! 旦那さんいる人に恋したらダメだろ!」

「そうなのか?」

 トロンがミノさんの肩をポンと叩く。

「それは人間の間では不倫て言うんだよ。いけない事なの」

「そうなのか? ミノタウルス界では妻を共有したり、妻が複数いるのはよくある事なのだが……」

「ミノさんて凄く人間寄りだけどそういう所は違うんだね」

 ミノさんはしょんぼり顔になった。

「じゃあやっぱり諦めるしか無いのではないか……」

「まぁ、そうだな。ダレンさんがいい奴なら尚更だ」

「もう村には行かん……」

 ミノさんは酒瓶をテーブルに置くと、ゴロンとベッドに横たわってしまった。

「ミノさん……」

「村の奴らに俺は元気にしていると伝えてくれ。あと旅に出るって……」

 ミノさんはそう言ったきり、二人がいくら話しかけても何も言わなくなってしまった。

 二人は仕方なく洞窟の入り口まで戻る事にした。

「わかったよ。とりあえず村の人達には、ミノさんが元気にしてるって伝えておくから、旅に出るのはもう少し考えてからにしなよ」

「……」

 やはりミノさんは何も言わなかった。

 そんなミノさんにトロンはこう言った。

「ミノさん、私は「酒場で水だけ飲んで帰る」のもいいと思うな。その帰り道で新しい酒場が見つかるかもしれないから」

 そしてミノさんの枕元に【愛と青春の魔法】を置いた。

「じゃあなミノさん。あんまり落ち込むなよ」

 ムチャとトロンはミノさんの部屋から出ようとした。そしてふと気がついた。


「ミ、ミノさん……悪いけど、入り口まで送って……」


 ミノさんはベッドからのそっと起き上がった。その目には涙が浮かんでいた。

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