ミノさんの悩み
「「どうもありがとうございました」」
ムチャとトロンはミノさんに頼まれてネタを披露していた。二人が芸人である事を話したらどうしてもお笑いが見たいと言い出したのだ。
「ブモっほっほっほ!」
ミノさんはムカデ酒の瓶を片手に大喜びしている。
「いやー、あのエンシェントなんちゃらってヤツは最高だったな! さぁ、お前らも飲め飲め」
そう言うとミノさんは、二人の前に置かれたグラスにムカデ酒を注いだ。
「いや、俺達は酒はいいよ」
ムチャは断り、トロンは一口だけ口に含み微妙な顔をした。
「それより、ミノさんが外に出ない理由って何なのか教えてくれよ」
ムチャは言うと、ミノさんの動きがぴたりと止まった。
「ミノさん?」
「いやな、何というかな……うーん」
ミノさんは二人に話すかどうか悩んでいるようだ。
「お前ら、あの村の住人じゃないもんな」
「そうだよ、俺達はたまたまミノさんの様子を見てくるように頼まれただけさ」
「うーん……あの村人達には言わないと約束してくれるか?」
ムチャとトロンはうんうんと頷いた。
「絶対に?」
「「言わない」」
「もし言ったら?」
「ムチャを食べていいよ」
「おい!」
「なら話そう」
「おい!」
ムチャの命を担保に、ミノさんは村に行かない理由を話してくれる事になった。
「実はな……」
ミノさんはそこまで言うと、目を閉じてぴたりと押し黙った。
二人はミノさんが話し出すのを待った。
「……………zzz」
「ミノさん、そういう古文書に載ってそうなギャグはいいよ」
「いや、いざ話すとなると恥ずかしくてな」
ミノさんはぽりぽりと頭を掻いた。
「何か恥ずかしい事なのか?」
「そりゃあ恥ずかしいだろう……ミノタウルスが人間の女に恋をするなんて…………あっ」
ミノさんは慌てて口を押さえた。
「ミノさん恋してるの?」
トロンが言うとミノさんは酒で赤くなった顔を更に赤くした。
「そうなんだよ……そうなんだよなぁ……恋って言うか、恋的な? もっと仲良くなりたいって言うか……」
ミノさんは巨体を精一杯縮めてモジモジした。
「思春期かよ!」
「いや、牛だからって発情期とかじゃないからな」
「発情とか言うなよ」
「で、相手は?」
ミノさんは更にモジモジした。
「村の食堂で働いてる……ペノちゃん」
ペノちゃんが誰かはしらないが、ペノちゃんもミノタウルスに惚れられてると知ったらさぞかし驚くであろう。
「で、ペノちゃんに惚れていたら何で村に行かないんだ? むしろ毎日村に行きたくなるんじゃないか?」
「だってよ、ミノタウルスが人間に恋っておかしいだろ?」
ムチャは腕を組んで考えた。
「うーん……まぁ、変かな」
「だろ? だからペノちゃんに会うと切なくなるから、恋煩いが治るまで村には行かないようにしてたんだ」
ミノさんは更に酒を煽った。
「ブモォ……ペノちゃん……」
「余計に拗らせてる気がするけど」
「そんなに好きだったら告白してみたら?」
トロンの提案にミノさんは鼻息を荒げた。
「ブモォ!そんな事してフラれたらどうする!? もう二度と村に行けなくなる!」
ミノさんの鼻息で二人の髪がバサッとなびく。
「その時はその時だろ。別に村に行けなくなる事は無いし」
「フラれるとは限らないよ」
ミノさんはブルブルと首を振った。
「フラれるに決まっているだろ!?」
「どうして?」
「俺は獣臭いし……」
ミノさんはどちらかと言えば酒臭かった。
「ワイルドな匂いだよ」
「牛顔だし……」
牛顔と言うより完全に牛だ。
「ツノがかっこいいよ」
「そもそも種族が違うし……」
「うーん……でも、私人間と恋人同士になった獣人を知ってるよ」
「本当か!?」
ミノさんの顔が一瞬明るくなった。
「ん? そんな知り合いいたっけ?」
ムチャは首を傾げる。
「ほら、ニパの」
「あぁ!」
ムチャはニパの両親の話を思い出した。
「そうそう、ウルフマンと人間が恋人同士になって子供まで作ったんだよ」
それを聞いたミノさんはうーんと唸った。
「でも、ウルフマンは変身すれば人間になれるし、なんかかっこいいじゃないか。俺はミノタウルスだぞ?」
「ミノさん卑屈だなぁ。人間だって失恋する事あるんだし、勇気出せばいいじゃないか」
ムチャは本棚にある、ミンティ・クリーノ著【愛と青春の魔法】を手に取ってペラペラとめくった。
「ほら、この本にも書いてあるよ。「恋をした相手に思いを告げない事は、酒場に行き水を飲んで帰るようなものだ」って」
「お前は恋が実っているからそんな事が言えるのだ」
「え?」
ミノさんは太い指でトロンを指した。
「いやいやいやいや」
「違う違う違う違う」
二人はブンブンと首を横に振る。
「何だ、違うのか。男女の二人旅だと言うからてっきり……」
「俺らはそういうのじゃねーよ! コンビだから二人旅してるの!」
「ミノさん、私達の話はいいから、ミノさんがどうするかを話そうよ」
ミノさんは腑に落ちない顔をした。
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