ミノさん現る

「ブモ?」


 二人の前に現れたのは、頭は牛で体は人間の半人半獣の魔物、ミノタウルスであった。眼前にいるミノタウルスの身長は二メートルを超え、手にした斧も相当な重量がありそうだ。その体には凄まじいパワーを秘めているのであろう筋肉が隆起していた。

「うまそうな匂いがしたから来てみれば、お前らこんな洞窟で何をしとるのだ?」

 ムチャは念のために剣を構えたまま言った。

「もしかして、あんたがミノさんか?」

 ミノタウルスはズシッと斧を構えた。

「……違うと言ったら?」

 洞窟内の空気が張り詰める。

「そこを退いてもらう」

 ムチャが言うとミノタウルスはニヤリと笑った。

「退く訳にはいかねぇな……」

 ムチャとトロンは戦闘を覚悟した。

「なぜなら、私がミノさんだから」

「なんとなくそうだと思ったよ!」

 ミノさんは見た目は怖いがどことなくいい人オーラが出ていた。ミノさんは斧を下ろした。

 ムチャは剣を収め、トロンも杖から魔力を消した。

「ミノさん、村人達に頼まれてあんたを捜しに来たんだ」

 ムチャは村人達が、ミノさんが最近村に来ないので心配している旨を告げた。

「うむ、俺も皆に会いたいのは山々なのだが、会いに行けぬ訳があるのだ」

「訳って何?」

 トロンが聞くと、ミノさんはちょいちょいと手招きをした。

「まぁ、立ち話もなんだから、俺の住処まで来いや」


 二人はミノさんについて十分程歩いて行くと、不思議な事にあっさりとミノさんの住処へと繋がる扉に辿り着いた。何時間も彷徨い続けていた二人は、ミノさんになぜこの迷宮のような洞窟内で迷わないのか聞くと、

「この迷宮にはコツがいるんだ」

 との事であった。二人にはそのコツがさっぱりわからなかった。

 ミノさんの住処は、洞窟の中を綺麗に部屋のように整地してあり、ベッドや本棚、テーブルに椅子、そして飲み水を入れるタルなどが置かれていた。

「すげー、これが洞窟の中とは」

「思えないね」

 二人がキョロキョロ辺りを見渡していると、ミノさんはドカッとベッドに腰を下ろした。

「その辺に座れよ」

 二人は椅子を引いて座った。

「そういえばさっきの甘い匂いは何だ? 果実か?」

「甘い匂い? あぁ、ミノさん鼻が良いんだな」

 ムチャはカバンからフルーツスライムの瓶を取り出した。

「何だこれは? ジャムか?」

 ミノさんは瓶を開けてくんくんと匂いを嗅いでいる。

「果物を食べて育ったスライムだよ」

「スライムかぁ……ふーん……」

 ミノさんはずっと匂いを嗅いでいる。

 いつの間にか右手には木を削ったスプーンを握りしめていた。

「……」

「……」

「……」

「……よかったらどうぞ」

「良いのか? ありがたくいただこう」

 ミノさんはもちゃもちゃとスライムを食べ始めた。


「……うまっ! 俺は牛だけど」


 ミノさんはやはり良い人そうだ。

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