クフーク村にて

「そう、ミノさん元気にしてるんだ。最近来ないから心配しちゃった」


 あれから、ミノさんに洞窟の入り口まで案内して貰ったムチャとトロンは、二人を待っていた村人達と共にクフーク村までやって来た。村で一泊した二人は、ミノさんの意中の相手であるペノさんを見てみようと、クフーク村の食堂にやって来たのだ。

「ミノさんがペノさんによろしくと言っていました」

「そう、わざわざありがとう。あ、ご注文は何にします?」

 二人がテーブルに着くと、ペノは二人にメニューを差し出した。

「オススメは牛と豚の合挽き肉を使ったジャンボハンバーグですよ」

「牛と逢引!?」


 ペチン


 思わず声をあげたムチャをトロンがビンタした。

「じゃあ、それ二つで」

「はーい、では少々お待ちを」

 そう言うとペノは店の奥に去って行った。

「綺麗な人だったね」

「うん、ミノさんが惚れるのも分かる気がする」

「ムチャって年上好きなの?」

「年上好きっていうか、俺より年下ってもう子供じゃねぇか」

「確かに」

「トロンはどんな奴が好きなんだよ」

「そんなの考えた事無いよ」

「あの……えーと、なんだっけな……追いかけて来た奴の名前……二枚目顔の……」

「確か……ナッポ?」

「そう! ナッポだナッポ。ナッポみたいな奴はどうだ?」

「あんまり考えた事は無いけど、あれは無い」

「だよな」

「あの人よりはまだ剣聖様くらいおじさんの方がいい」

「え? トロンってケンセイが好みなの?」

「ナッポよりはって話」

 ナッポ、もといナップは護るべき巫女様に名前を間違えて覚えられていた。

 そうこうしているうちに、二人の前に巨大なハンバーグが運ばれてきた。

「はーい、お待ちどうさま。ジャンボハンバーグでーす」

「でかっ!」

 鉄板の上でソースがジュウジュウはじけて香ばしい香りが二人の鼻腔をくすぐる。トロンは溢れそうなヨダレを拭った。

「ごゆっくりどうぞ」

 ムチャとトロンはフォークとナイフを構えた。

 そしてハンバーグに手をつける。

「見てくださいよこの肉汁。ナイフを入れただけで溢れてきましたよ」

「この香ばしい香り……これだけでごはんが食べられそう」

「そしてこのボリューム! このまま枕にできちゃいそうですよね」

「ムチャ、普通に食べよう」

「うん」

 ハンバーグは実況せずとも美味しかった。二人は食べている途中でミノさんの事を思い出し、ほんの僅かに申し訳なく思った。


 そして十分後。


「幸せ……」

 トロンはうっとりとした目をして背もたれに寄りかかった。

「トロンてハンバーグ好きだよな」

「好き……」

 寺院では質素な食生活を義務付けられていたトロンは、ムチャと旅を始めてから食事の喜びを知ったのであった。良くも悪くも。

「ナマグサ巫女様だな」

「どうせならハンバーグの巫女になりたかった」

 トロンはまだハンバーグに浸っているようだ。


 ドォン!


 その時、店の表から大きな破壊音が聞こえた。

 それと同時に一人の村人が駆け込んでくる。


「みんな逃げろ! 魔物の襲撃だ!」

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