姉弟子

 ムチャとトロンはカリンから詳しく話を聞く事にした。

「もう十年くらい前になるかなぁ」

 カリンとイワナは以前冒険者として二人で世界を旅しており、その旅の途中で魔物の群れに襲われた際に、魔王を倒すために旅をしていたケンセイとその仲間一向に命を救われたのだそうだ。

「剣聖様は強かったのよー。もうトロールなんか、サッと躱してズバーン! って感じで」

「知ってる」

 ケンセイの強さは、弟子であり、長く旅を共にしていたムチャにはよくわかっていた。

 命を救われた二人はケンセイとその一行の強さに惚れ込み、しばらくケンセイ達に付いて世界を旅したそうだ。

「その間に私は剣聖様に武術を」

「僕はその一行にいたクレア様という魔法使いに修行をつけてもらっていたんだ」

 しかし、しばらく一緒に旅をした後、「ここからの旅はお前達には危険だ」と言われ、西の町に置いていかれてしまったそうだ。

「僕達もついて行こうとしたんだけどね、僕の師匠に眠りの魔法をかけられて、目が覚めたら王都へ向かう馬車の中だったんだよ」

 ムチャとトロンは某英雄(仮)と出会った時を思い出した。

「でも、カリン達が危険な旅ってどんな旅路だよ……」

「あんた姉弟子を呼び捨てにするの? まぁ、そりゃあ危険だったわよ。あんた達はガキだったからよくわからなかったかもしれないけど、魔王が倒れる前は北の方なんて人間より魔物の方が多いくらいだったんだから」

 それからも二人はケンセイ一行を探して旅を続けたそうだが、二人が一行を見つける前に、魔王が倒れたとの知らせが世界中に広まったのだ。

「で、その後に僕がカリンにプロポーズして、この街に帰って来たんだ」

「あの日は激……まぁ、その話はいいわね」

 カリンはゴホンと咳払いをした。

「剣聖様はお元気でいるの? 今はどこに居るの?」

「まぁ、元気だとは思うよ。でもどこにいるのかはちょっとわからないなぁ……まだ寺院にいるとは思えないし」

 弟子が巫女を攫ったとなっては、下手したら追放されているかもしれない。ムチャは久しぶりにケンセイに申し訳ないと思った。

「そっか、元気そうなら良かった。私が言うのもなんだけど、剣聖様はちょっと危うい所があったから」

「ムチャ君と剣聖様が旅をしていた時は、他に誰かいなかったのかい?」

「いや、俺とケンセイの二人旅だったよ」

「そうか……他の方々はどうしたのだろうか」

「魔王を倒してから、それぞれ自分の故郷に帰ったんじゃないかな?」

「うん、きっとそうだろうな」

 イワナは自分を納得させるように頷いた。


 それから、ムチャとカリン達は、ケンセイの話で盛り上がった。カリン達はケンセイの厳しい面や優しい面を色々知っていたが、ムチャとケンセイが旅をしている時に芸人をしていたと言うと、信じられないという顔をして驚いていた。しかしその後。

「まぁ、剣聖様はひょうきんな所もあったし……」

「酔うとジョークも言っていたしな」

 と、なんとなく納得したようであった。


 しばらく話した後、四人は控え室を出て、闘技場の出口へ向かった。

「来週の試合、頑張れよ」

「お笑いライブ絶対に観に行くからね。コランも連れて」

「うん!」

 トロンは嬉しそうに頷いた。

 そして四人は再び握手をして別れた。

 闘技場からの帰り道、ムチャがポツリと呟く。

「でもさぁトロン」

「なぁに、ムチャ」

「もしあの二人より強い……いや、あの二人と同じくらい強い奴らが相手だったら俺達多分勝てないよな」

「うーん……」

 二人は頭を抱えた。

 しかし、そこはこの二人である。

「あ、ハンバーグ屋だ」

「お腹空いたね」

 抱えるのを頭からお腹に切り替え、意気揚々とハンバーグ屋に入るのであった。

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