奴はどこでもやって来る2

「どういう意味だよ。お別れって」

 ムチャが問うと、ケセラは寂しげな表情のまま言葉を続ける。

「今まで黙っていたのですが、私は実は新生魔王軍の一員なんです」

 その言葉にムチャは驚く。

「というと……ケセラはブレイクシアやイルマの仲間なのか?」

 ケセラは無言で頷いた。

「じゃあ、何でその事を俺に言いに来たんだよ?」

 それはもっともな疑問であった。ケセラが新生魔王軍の一員なのだとしたら、ブレイクシアとイルマを退けたムチャとトロンの監視役として、これからもスパイ活動を続ければ良い話だ。


「それが、次に動き出すのが私の主人なんです。主人はムチャさんとトロンさんに興味を持たれたみたいで、お二人にお会いしたいそうです。私はその事を伝えて来るように言われまして……」

 どうやらケセラの主人は、ムチャとトロンと真正面から対峙したいようだ。そのために今宵ケセラをムチャの元へと出向かせたのだ。故にケセラはムチャに自らの身分を明かしたのだ。


「わかった。別に魔王軍とどうこうする気は無いけど、会うだけならいくらでも会ってやるよ。その主人って奴の所に連れて行ってくれ」

 ムチャは鼻息荒くそう言ったが、ケセラは首を横に振る。

「近いうちに主人の方から出向くそうです。ですから、その時を待っていてください。それでは……」

 ケセラはムチャの額に手をかざす。

「待ってくれよ! ケセラが魔王軍の一員だとしても、俺達友達だろ!?」

 今度はムチャの言葉にケセラが驚いた。

 しかし、ケセラは悲しげに首を横に振る。

「そういうわけにはいかないんです。ですから、ムチャさん達が主人と争う事になるのなら、その時はせめて私の手で……」

 ケセラの手から魔力の光が放たれた。

 その光に包まれたムチャは強烈な眠気に襲われ、その場に倒れる。


「短い間でしたが、お二人と知り合えて楽しかったです。そしてムチャさん、私は少しだけあなたの事を……」


 眠気に飲まれながら、ムチャは最後までケセラの言葉を聞き取ることができなかった。

 そして、この平穏な学園生活が長くは続かないであろう事を悟った。



 バッサバッサ……

 バッサバッサ……


 夜明けにはまだ早い闇夜の中を、ケセラは西に向かって飛んでいた。その目からは涙が溢れている。

 ケセラは泣きながら、懐から手鏡を取り出して呼びかけた。

「……プリムラ様、例の二人に会って来ました」

 手鏡に映るケセラの顔がボヤけ、鏡面には代わりにプリムラの姿が映し出される。プリムラは泣いているケセラを見て、優しげな声で語りかける。

「ありがとう。辛い仕事を任せてしまったかしら?」

「いえ、私だって、魔王軍の一員ですから」

 ケセラは泣きながらも健気な言葉を紡ぐ。


「ケセラ、そんなに泣かないで……私が必ず全ての人間達を救うから」


 プリムラの言葉に、ケセラはただ頷いた。

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