その日の夜

 入寮初日の夜、ムチャは寮生達により開かれた歓迎会に参加し、大いに楽しんだ。歓迎会の中で行われた腕相撲大会や、面白い話大会でもムチャは大活躍し、あっという間に先輩後輩問わずに仲良くなった。


 歓迎会も終わり、ムチャがベッドで寝ようとしていると、耳元でムチャの名前を呼ぶ声が聞こえた。

「ムチャ、ムチャ」

 ムチャが目を開けると、枕元には親指サイズの小さなトロンがいた。

「うぇ!? トロン?」

 それは小さくなったトロン本体ではなく、トロンが魔法で作った分身であった。

 ムチャはハリーノとレオが寝ているのを確認し、ベッドから起き上がり、ミニトロンを手のひらに乗せる。

「ねぇ、うまくやっていけそう?」

 ミニトロンはムチャに聞いた。

「うん、俺の方はなんとかやっていけそうだ。トロンはどうだ?」

 ムチャが問い返すと、トロンは少し考えてから答える。

「まぁ、なんとかなると思う」

「なんとかなるって、何かあったのか?」

「ちょっとね。でも大丈夫」

 それを聞いてムチャは少し心配になったが、あまり過保護なのもどうかと思い、トロンを信じる事にした。

「そうか、大丈夫ならいいけどな。何かあったら言えよ」

「うん、ありがとう。じゃあ、そろそろお休み」

「おう、おやすみー」

 ミニトロンはふりふりと手を振ると、ポムンと光の粒になって消えた。

「本当に大丈夫かなぁ……」

 ムチャは深くため息をついて、再びベッドに横になって天井を見上げる。

 すると。


「へぇ、今のは使い魔……いや、通信魔法の一種かな。姿まで再現するとは中々高度な魔法だなぁ」

「おいムチャ、今のは彼女か? 彼女なのか?」

 いつの間にかレオとハリーノは目を覚ましていたらしい。彼らはベッドの中から爛々と目を光らせてムチャを見ていた。

「い、いや、違う違う!! そういうアレじゃねぇよ!!」

 驚いて否定するムチャに、ベッドから飛び出したレオとハリーノが襲いかかる。

「中々かわいい子だったね。どこの子だい?」

「部屋の先輩方に詳しく聞かせなさいよ、詳しくよぉ」

「わ、わかったから! わかったから離れてくれ! 暑苦しい!」

 そこからは深夜の男子トークが始まった。

 ムチャとトロンの関係性から始まり、付き合うならどんな女性が良いか、女性のどこに惹かれるかなどくだらない話で盛り上がり、結局眠りに就いたのは朝方近くであった。


 こうして、ムチャとトロンの学生生活が始まったのだ。

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