ライブの日3
病院を出たムチャは商店街の人混みをすり抜けてアレルの街を駆け抜ける。そして宿屋街を抜け、街の東門を目指す。人通りの少なくなったところで、ムチャは感情術を発動させた。
「喜術、乱走!!」
ムチャの脚部から黄色いオーラが迸り、ムチャの走る速度がグンと加速する。
「いよっしゃあぁぁぁぁあ!!」
喜の術の使用でテンションのおかしくなったムチャは凄まじい速さでそのまま街の外へ飛び出した。
「今のは……」
ムチャが宿屋街を抜ける時、その背中を見送った人物がいた。その人物は繋がれている愛馬にニンジンを食べさせ終えると、縄を解いて愛馬の背に跨る。
「あいつら今日がライブだと言うのにまた何かやらかしたのか。追うぞ、アルバトロス」
彼が愛馬の腹を足で叩くと、アルバトロスと呼ばれた馬ははヒヒンといななき走りだした。
一方、病院の手術室には魔法ウイルスに感染した患者四人が集められていた。彼等は皆額に汗をかいて、悪夢にうなされるかのように呻き声をあげている。その中にはミモルの姿もあった。
「ミモルちゃん」
トロンは苦しむミモルの額に手を当てた。その額は驚く程熱い。
「トロン君、恥ずかしながら医者である我々にもどうしようもない状況だ。頼んだぞ」
ソドルの言葉にトロンは頷き、杖を手に手術室の中央に立った。そして目を閉じて魔力と心を集中させる。
すると、トロンの全身から青いオーラがゆらりと湧き上がった。
「我が身に宿る哀の感情よ」
オーラは部屋中に広がり、霧のように滞空する。
「その鎮静の力を持って」
霧は患者達へと集まり、その体を包み込む。
「身と心の時を遅らせよ」
霧が患者達の体に吸い込まれると、彼等の体が僅かに青く光り、手術室内に響いていた呻き声が止んだ。
「これが感情魔法……」
トロンの魔法を見て、ソドルは感嘆の声をあげた。
「父ちゃん。トロン姉ちゃんは何をしたの?」
「わからん。だが、ミモルの顔を見てみろ」
ベッドに横たわるミモルの表情は、先程とは違い眠っているかのような穏やかな顔をしている。
トロンは今以上にウイルスが活性化しないように、患者達の思考や精神を含む肉体全体の時間を遅らせたのだ。
しかし、この手段は一時しのぎにはなるが根本的な解決にはならない。更に感情魔法は多くの魔力と体力と精神力を使う。トロンは杖を握り締めながら祈った。
(ムチャ、急いで)
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