ライブの日4

「わーっはっはっは!!」

 思いっきりシリアスな展開にも関わらず、ムチャは奇声をあげながらハイテンションで街道を駆けていた。これはムチャが悪いのではない、最大まで走力を上げるために全力で感情術を使っているせいなのだ。しかしそのおかげでムチャの足は速かった。

 そんなムチャを背後から追いかけてくる栗毛の馬がいた。馬の背にはボチボチイケメンのナップが跨っている。

「おい! ムチャよ、待て!」

 ナップの声にムチャが少しだけ速度を落とすと、ナップがムチャに並走してきた。

「貴様何をしている!? 今日はライブだろうが!」

「今はそれどころじゃないんだひょぉう!!」

「どこへ向かっている!?」

「とにかく東の方だひょぉう!」

「そのテンションは何だ!? 急いでいるなら乗れ! アルバトロスの方が速い!」

 ナップの言葉に甘えて、ムチャはアルバトロスの背に飛び乗り、感情術を解いた。

「ふぃ〜」

「全く、何事だ。事情を話せ」

 ムチャはカクカクシカジカと事のあらましをナップに話した。

「そういう事か。お前と巫女様は間が悪いな」

「うるせぇなぁ。ライブに間に合えば良いんだよ」

「飛ばすからしっかり捕まれ。アルバトロス!」

 ナップがアルバトロスの腹を叩くと、アルバトロスは更に加速する。

「何で馬の名前がアルバトロスなんだ?」

「フロナディア様に聞け!」


 ※アルバトロス→アホウドリ


 ミモルは夢を見ていた。

 夢の中でミモルは湖の中心に浮かんでいる。

(冷たい)

 湖の水はとても冷たく、ミモルは今にも凍えてしまいそうである。苦しくて切なくて悲しい気持ちがミモルの心を支配しようとしていた。

 ふと視線を動かすと、湖の岸にはゴドラやコモラが立っていて、心配そうにミモルを見つめている。

「お父さん……お母さん……お兄ちゃん……」

 ミモルがそちらに手を伸ばそうとすると、突然ミモルの体は水中に沈み始めた。ミモルは泳ごうとしたが、手足は思い通りに動かず、どんどん湖の底へと沈んでゆく。


 イヤだ、イヤだよ……


 ミモルがそう思ったその時、ミモルの手を何者かが掴んだ。

「えっ?」

 ミモルの手を掴んだのは、杖に跨り宙に浮いているトロンであった。

「諦めちゃダメ」

 トロンは不思議な力でミモルの体を水面まで引き上げる。

「絶対に大丈夫だから」

 ミモルの手を握るトロンの手は暖かく、トロンの体からエネルギーが流れ込んでくるようである。

「もう少しだけ頑張って。ムチャがお医者さんを連れてくるから」

 トロンはミモルにニコリと微笑む。

 ミモルは小さく頷き、トロンの真似をして微笑んだ。

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