トロンと迷子

「……君だぁれ?」

 トロンが聞くと、幼子、三歳くらいの男の子は、片手でトロンのローブの裾を引き、もう片手の親指を口に咥えながら首を傾げた。

「えーと、じゃあ、ママとパパは?」

 トロンが質問を重ねると、男の子は口から指を離し、言った。

「ママ、いなくなった」

 どうやら男の子は迷子らしい。トロンが辺りを見渡すも、辺りは人でごった返しており、どの人物が男の子の母親かわからない。

「……」

「……」

 トロンが男の子に視線を戻すと、男の子は相変わらずトロンの事をジーッと見つめている。男の子とトロンはしばらく見つめ合った。そして、たっぷり見つめ合った後、トロンが口を開く。

「ママ、探そうか」

 男の子はコクリと頷いた。


 トロンは男の子を連れて商店街を歩き回り、男の子の母親を探した。トロンが男の子の母親くらいであろう年齢の女性を指差して、「あの人は?」と男の子に聞くという行動を数十回繰り返したが、男の子は一度も首を縦に振らなかった。いくつかの商店の店員に声をかけ、「この子の事知りませんか?」と聞いても、誰も少年を知るものはおらず、有力な情報も得られない。

「ママいないねぇ」

 トロンと男の子は歩き疲れ、商店街の外れにあるベンチへと腰掛けた。二人の前を多くの人が通り過ぎるが、男の子のママであろう人物は見当たらない。すると。


 くーっ


 トロンの隣から小さな音が聞こえた。どうやら男の子はお腹が空いたらしい。そして。


 ぐーーーーーーーーっ


 トロンのお腹も音を立てた。トロンは朝からムチャの看病をしていたため、起きてから何も食べていなかったのだ。

 トロンは小脇に抱えた紙袋を開けて、中からソンナバナナを取り出し、房からバナナを千切り、男の子と二人で食べた。バナナはとても甘く、二人の胃袋を幸福感が満たす。トロンは果実店の店主の話を思い出し、とりあえず言ってみた。

「……そんなバナナ」

「……そんなバナナ?」

 男の子もトロンの真似をして言った。

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