ラウンド3

 トロンはイワナの力量を自分なりに分析していた。

 これまでの戦闘で、イワナは雷の魔法を扱う事に長けている事は明らかだ。試合開始前のパフォーマンスで使った技を見るからに、先程は背後にカリンがいたからよかったが、普通に戦ってはトロンの障壁は高火力の雷魔法で砕かれてしまうであろう。更にイワナは身体能力も高く、近接戦闘も強い純粋な戦闘魔術師だ。

 一方トロンは戦闘魔法からサポート魔法まで幅広く魔法を身に付けているが、言うならば器用貧乏であり、純粋に戦闘が得意な相手との一対一に向いているとは言えない。真っ向から戦っては恐らく敗北するであろう。

 ムチャのサポートに回ろうにも、ムチャはカリンと感情術を用い、激しい戦闘を行なっている。阿吽の呼吸のムチャとトロンではあるが、今下手に手を出せばかえって邪魔になってしまう。


 ならば今自分はどうするべきか。トロンは考えた。しかし、その答えを導き出す前にイワナが動いた。

「雷槍」

 イワナの杖が雷光を放ち、バチバチと音を立てて雷を纏う。そして雷は杖の先端に集まり形を成し、杖は雷の槍となる。それを見たトロンは己に身体強化の魔法を掛けて身構えた。

 イワナは魔術師とは思えぬスピードで地を蹴り、トロンへ襲いかかる。トロンは杖に魔力を通わせ、イワナの一撃を何とか受けた。しかし本気を出したイワナの力は、先程よりも段違いに強く、トロンの小さな体はイワナの長身から繰り出された槍の一振りで、後方に弾き飛ばされる。

「……あっ!」

 リングアウト寸前で踏み止まったトロンであったが、前方ではイワナが既に次の一撃を構え、駆け出していた。

「炎よ」

 トロンは苦し紛れに杖から火球を放つ。それはイワナの槍の一振りで消し飛ばされ、返す雷の槍がトロンの側面へと迫る。しかし火球によって生み出された隙のおかげで、トロンは前転して槍の横薙ぎを躱す事に成功する。そのトロンの背中に、イワナは振り向きながら蹴りを放った。

 蹴り飛ばされたトロンは、リング中央近くまで飛ばされた。そして背中を強かに蹴られたせいで思わず咳き込む。

(勝てない……かも)

 と、咳き込みながらトロンは思った。

 イワナが先程放った振り向き側の蹴り。あれは蹴りじゃなく、雷の槍で背後から突くこともできたはずだ。しかしイワナは蹴りを放ち、トロンをリング中央へ戻した。つまりイワナはまだまだ余裕があるという事だ。

「女の子を怪我させたくはないんだけどね」

 イワナはトロンの心を読んだように言った。

 それを聞いて、トロンはキュッと下唇を噛む。


 ズザザザ


 その時、トロンの隣にムチャが転がってきた。

「いてて……」

 少し離れた所に槍を振り切ったカリンがいる。二人が感情術を発動し、ぶつかり合ってから時間にして三十秒程度しか経っていないのに、どうやらムチャも一対一に敗北したようだ。

 状況は万事休すであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る