プレグの過去4
ぽぅ
プレグは頭部に暖かな光を感じていた。そして湖に沈んでいた意識が水面に浮かび上がるように、プレグは覚醒する。うっすら目を開けると、そこにはフロルの顔が見えた。
「フロル……」
プレグの手がフロルの頬に触れる。
「ここは天国?」
プレグが呟くと、フロルがプレグの手を握った。
「お姉さん大丈夫?」
それはフロルではなく、昼間見たフロルにそっくりな少女であった。
「あなた……どうして……」
「宿にいたらお姉さんの声が聞こえたから来てみたの」
すぐ近くから魔法の炸裂音が聞こえてくる。
「トロン! ちょっと俺だけじゃキツい! あちちちち!」
プレグが体を起こして目をこすると、少年が文字通り尻に火をつけながら魔法使い達を相手に立ち回っているのが見えた。
「今行くー。お姉さん、隠れてて」
フロルに似た少女はそう言うと立ち上がり、少年の元に向かった。
「トロン、あの人数に魔法一斉に撃たれたらやり辛い」
「じゃあ、魔法耐性を付けるから、あの人達を一箇所に集めて」
「あれやるのか?」
「試したいんだけど、いい?」
「OK」
それを聞いた少女は、少年の体に触れる。
「護りを」
少女に触れられた少年の体が眩い光を放ち始める。
「これ本当に大丈夫か?」
「たぶん大丈夫。ただ、そんなに長持ちはしない」
少女は親指をグッと立てると、少年は不安そうに前に進み出た。すると、魔法使い達が一斉に杖を構える。
「氷結せよ!」
「雷よ!」
「魔により生み出されし業火よ、我が眼前に立ちはだかる敵を穿ち、爆裂せよ!」
「バカ! 殺しちまうぞ!」
一人の魔法使いが止めるがもう遅い、杖から飛び出した魔法が少年に集中放火を浴びせる。
「トロン! 一個だけなんかデカ………!!??」
チュドーン!!!
少年が言い終わる前に、全ての魔法が少年に命中し爆裂した。
「やったか!?」
「まぁ……跡形も残らないだろうからいいだろ」
魔法使い達は勝利を確信した。
風が吹き、爆煙が消えると、そこには呆然としている少年の姿が現れた。少年は五体満足で地面に立っている。
「……嘘だろ」
今度は魔法使い達が呆然とした。それはプレグも同じであった。
「あんな強力な耐魔の魔法見たことないわ……」
「びっくりしたぁ」
少年は自分の手足がくっついているかを確認すると、ふぅと息を吐いて駆け出した。
「使える者は魔法剣を!」
魔法使い達の後ろにいたダリアが指示を出すと、剣を抜いた魔法使い達が数人飛び出す。少年は魔法使い達が振るう炎や雷を付与された剣をするすると躱すと、剣を鞘に入れたまま魔法使い達を次々にぶん殴った。殴られた魔法使い達は吹っ飛ばされて一箇所に集められてゆく。一方少女は、吹っ飛ばされた魔法使い達を中心に、杖でグリグリと円を描くように何かを描いていた。
「おのれ……」
ダリアは懐から二本のダガーを抜くと、それぞれに炎の魔法を付与して少年に襲いかかる。しかし、魔法により肉体を強化したダリアよりも、剣の腕前は少年の方が上のようだ。何度か打ち合ったが、ダリアは少年にあっというまに追い込まれてしまう。少年は上段から鞘付きの剣を振り下ろした。それをダリアはダガーをクロスして受ける。
「ふんっ!」
少年が剣を押し込もうと力を込めて踏ん張ると、ダリアはニヤリと笑った。
「バカめ……解放!」
ダリアが唱えると、ダガーに付与された炎が少年に向かって炸裂した。……が。
「バカはおっさんだろ」
少女に付与された魔法耐性はまだ効果が続いていたのだ。少年はダリアを前蹴りで蹴っ飛ばすと、ダリアは先に吹っ飛ばされた魔法使い達の上にすっ転ぶ。
「トロン! 集めたぞ!」
「こっちもできたよ」
気がつくと、魔法使い達は全員が少女の書いた円の中に入っていた。円をよく見ると、それは文字の集合体で形成されている。
(あれは魔法陣?)
それはプレグが見たこともない魔法陣であった。
「よっしゃ! それじゃやるぞ!」
少年が剣を抜いて気合いを貯めると、少年の体から黄色いオーラが立ち上る。そして少年から出た黄色いオーラは、少年の持つ剣に纏わり付いて魔法剣のようになった。少年はその剣を魔法陣の端に突き立てる。
「喜流し!」
少年が叫ぶと、今度は剣から魔法陣へと黄色いオーラが流れ込み、魔法陣は黄色く光を放つ。
「喜の力を喜の力と掛け合わせ増幅せよ」
少女が杖を構え魔力を込めると、より一層魔法陣は輝いた。そして少年と少女は声を揃えて言った。
「「強制爆笑陣!!」」
すると、魔法陣の中にいた魔法使い達が急にゲラゲラ笑いだした。
「あひゃひゃひゃ!」
「な……なんだこれひひひ!」
「は、腹が痛いふふふふ!」
全員が腹を抱えながら、地面をのたうち回り異様な笑顔を浮かべて笑っている。どうやらこの魔法陣、陣の中にいる人間を強制的に笑わせる魔法陣らしい。バカバカしいが、笑いすぎて身動きが取れないとは相当な効果のようだ。
「うーん、技名がイマイチだな」
「まず技名に爆笑って入ってるのがダメだよね」
「しかも使い所がなぁ……」
「これ怒の術流したら中で殺し合い始まるかもね」
「それは蠱毒の陣と名付けよう。一生使わないだろうけど」
二人が呑気に話していると、陣の中にいるダリアが口からよだれを垂らしながら立ち上がった。
「き……きさ……まら……」
ダリアは唇を血が出るほど噛んで笑いをこらえている。
「気をつけて! そいつは魔弾きの衣を着てるから!」
プレグが言うと、少年がこっちを見て大丈夫大丈夫と手を振った。
「これ、魔法で笑わせてるんじゃなくて、喜の感情を魔法陣で増幅して、中でめちゃくちゃに反射させてるだけだから」
「あの人精神力だけで耐えてるね。ムチャ、まだ喜の術使える?」
「おう、流してるだけだから変なテンションにもならないしな」
少年が再び黄色いオーラを流すと、ダリアは堪えきれずに爆笑しながら地面をのたうち回った。
「な、大丈夫だろ?」
少年と少女はプレグに向けてグッと親指を立てた。
「……バカみたい」
プレグは本日三回目のバカみたいを吐き出す。
ふと、プレグの目に少女の側で空間が揺らめくのが見えた。
「危ない!」
プレグは飛び出し、助走を付けながら拳を振り上げると、全力で空間の歪んだ場所目掛けて振り下ろした。
「へぶっ!」
顔面を殴打されたエリシアの透明化が解けて吹っ飛ぶ。そして吹っ飛んだ先には魔法陣、否、強制爆笑陣が待っていた。
「あひゃひゃひゃ!」
普段は貞淑なエリシアがあられもない姿で爆笑した。
今度はプレグが二人にグッと親指を立てた。
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