ミスコンテスト8
「それではこれより表彰式に移りたいと思います」
司会者の言葉で表彰式の準備が始まろうとしたその時、一人の係員がステージ上に駆け上がった。そして司会者の耳になにやら耳打ちをする。
「え? 何? えぇ!?」
司会者は係員の耳打ちを受けて、驚きの表情を見せた。そして係員が再び舞台袖にはけると、司会者はゴホンと咳払いをして、観客達へ向き直る。
「えー……誠に申し訳ございません。大会規定により、カリン殿は失格となります」
えーーーーっ!?
観客席から驚きの声が上がった。そして多くのブーイングが巻き起こる。
「えー、ミスコンだけにこれは100%運営側である我々のミスです。深くお詫び申し上げます。しかしまず聞いてください。このコンテストは「ミスコンテスト」であり、未婚の女性しか参加できないのです。よって「ミセス」であるカリン様は本来参加できないのですが、ミスコン三連覇を果たしたカリン様が再び参戦するという事にテンションを上げてしまっていた我々はその事を失念していたのです」
ブーイングは更に強く舞台上に降り注いだ。
「皆様! 落ち着いて下さい! 誠に申し訳ありません! どうか落ち着いて下さい!」
司会者があまりのブーイングにあたふたしていると、舞台上にいたカリンが司会者にツカツカと歩み寄った。
「まさか殴るのか!?」
闘技場全体に緊張が走り、さっきまでのブーイングが嘘のように静まり返った。
するとカリンは司会者の杖を手に取って、観客達へ向き直り、言った。
「私に投票してくれたみんな、ごめん!」
そして軽く頭を下げ、言葉を続ける。
「いやー、うっかり参加しちゃったけど、普通ミスコンって未婚者しか出ちゃいけないんだよね。私にオファー出した闘技場も闘技場だけど、参加した私もバカだったよ」
カリンはポリポリと頭を掻きながら苦笑いを浮かべた。
「でも、みんな私に投票してくれてありがとう。このお詫びはこれからの試合でするから、みんなまた私の試合を観に来て頂戴よ。最高の試合を見せるからさ!」
カリンが拳を突き上げると、観客達から今度は歓声が上がった。
「よーし! まだブーブー言うようなナニの小さい野郎はいないみたいだね!……あっ」
せっかく丸く収まったのに余計な事を言ってしまうのがカリンである。イワナは「あちゃー」と額に手を当てた。
「パパー、ナニって何?」
コランが純真無垢な目でイワナを見つめる。
「えーっと……心の大きさの事かな」
「そうなんだー、僕もナニの大きな人になる!」
イワナは慌ててコランの口を塞いだ。
それから再び投票が行われ、カリンの票が全体に割れた結果、優勝はなんと意外な事にニパとなった。
ニパは元々その明るさと元気振りで子供やお年寄りに人気があり、先程の投票でも上位に食い込んでいた。しかし、それだけでは優勝の決め手に欠けていたのだが、票を大きく動かしたのはたまたまデートでミスコンに来ていたシムとタリー、そしてその友人である多くの子供達であった。シムが皆に「あの子俺の友達なんだ!」と言うと、友人達は皆こぞってニパに票を入れた。それが決め手となり、ニパが今年の優勝者となったのだ。
「みんなー! ありがとう!」
ニパは戸惑いながらも、金色のトロフィーを抱えて観客達へ手を振った。そしてサービスのつもりでセクシーなポーズを披露してみるも、なぜか観客達からは優しい笑いが起こった。
こうして、紆余曲折あったミスコンテストは幕を閉じたのだ。
闘技場からの帰り道、ムチャとトロンは夕日に赤く染められた街をのんびりと歩いていた。
「あーあ、優勝できなかったなぁ」
「でも、ライブの宣伝になったから良かったよね」
ミスコンが終わった後、なんとマニラが二人にライブの告知をする時間をくれたのだ。トロンがミスコンで色々やらかした甲斐もあり、観客達の反応は上々であった。
「でも優勝できるかもって思ったんだけどなぁ」
「ムチャはあんまり出て欲しくなさそうだったのに」
「そ、それはそれだよ」
「あの時助けてくれてありがとう」
「あの時?」
「特技披露の時、あの時本当に困ってたの」
「あぁ、当たり前だろ。トロンは俺の相方なんだから」
ムチャはそっぽを向いて照れたように頬を掻く。
「私、あんな大勢の前で歌うの初めてだったけど、結構楽しかった」
「そりゃ良かった。今度は歌ネタでもやるか」
「でも、前から思ってたけど、あの歌詞はどうかと思う」
ムチャはドキッとして立ち止まる。
トロンの方を見ると、トロンの頬は饅頭のように膨れていた。
「私が食いしん坊とか、ハンバーグとか、ビンタが強いとか……」
「あ、いや、それはな……」
トロンはムチャの頬を摘んだ。
「いててててて!」
「ねぇ、どういう事? みんなの前でムチャはスケベとかブロッコリーが嫌いとか優柔不断とか歌おうかなぁ」
「か、かんべんひてくだひゃい」
トロンはムチャの頬を摘んだまま歩き出す。
ムチャの頬を摘んだまま歩くトロンのカバンからは、銀色のトロフィーがチラリとのぞいていた。
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