ナップの回想19
仮面騎士コンビが十数戦を勝ち抜いたある日、グリームス邸の庭で腕立て伏せをするナップの上で胡座をかきながらゴディバドフは新聞を読んでいた。
「ほー、アレルの闘技場には面白い闘技者が出てきたようだな」
「アレルというと、ここからしばらく南下した所ですね。どのような闘技者ですか?」
ナップは額から汗を滴らせ、話しながらも腕立て伏せを続ける。
「何でも最強の芸人コンビという触れ込みで闘技者をやっているそうだ。戦績はたった二戦だが、中々強いらしいぞ」
それを聞いてナップはピタリと腕を止めた。
「最強の……芸人コンビ……」
そのワードを聞いてナップの脳裏に浮かんだのはあの二人であった。いや、世界広しといえどあの二人以外にあり得ない。
「ちょっと貸して下さい!」
ナップは上に乗るゴディバドフから新聞を受け取ると、片手で腕立て伏せをしながら新聞に目を通す。新聞の片隅には、小さな文字で『前代未聞! 前座の芸人が闘技者デビュー! 勝ち抜けばお笑いライブ開催か!?』と書かれている。ナップはムチャとトロンの事だと確信する。
そこへ昼食を用意していたフロナディアが、大きなバスケットを持ってやって来た。
「あら、ナップ様何を読んでいますの?」
ナップはフロナディアに構わずに言った。
「ゴディバドフ殿! ここからアレルの闘技場までどれくらいかかる!?」
突然興奮し始めたナップに驚きつつも、ゴディバドフは髭を擦りながら答える。
「あー……馬で飛ばせば四日くらいかな」
ナップは力強く腕を屈伸させ、背中のゴディバドフを跳ね飛ばして立ち上がると急にアワアワし始めた。
「ナップ様、どうしました? 落ち着いて下さい」
フロナディアはバスケットからサンドイッチを取り出し、ナップの口に押し込む。
「ムグ! ……フロナディア様……彼等です! 私が追っている二人です!」
フロナディアはナップの差し出した新聞を見た。
「あら……アレルの闘技場に。そんなに遠くないですわね」
「早く行かねば! 彼等は自由奔放過ぎて足取りを追うのが難しいのです!」
ナップは慌ただしく部屋に荷物を取りに行こうとする。
「お待ちください! 私との約束はどうなさるのですか?」
「え? あ! いや、しかし……」
ナップがアタフタしていると、ゴディバドフが言った。
「待て待て、こいつらがお前が言っていた誘拐犯と心神教の巫女か?」
「そうだ!」
ナップは頷く。
「お嬢はナップと一緒にいたいのだろう?」
「そうですわ!」
フロナディアも頷く。
「それならさっさと巫女を取り戻せばずっと一緒にいられるではないか」
ゴディバドフが珍しくまともな事を言った。
「その通りだ! ゴディバドフ殿、しばらく闘技場の方は休ませていただく! フロナディア様、馬を一頭貸していただけないか!?」
「私も行きますわ!」
「だから待てと言っとるだろうが」
二人してアワアワし始めたナップとフロナディアをゴディバドフがなだめる。
「ナップよ、お前はアレルに行ったところで宿敵から巫女を取り戻す自信はあるのか?」
「それは……それは分からぬが、この機を逃したくはないのだ!」
「二人ならきっとなんとかなりますわ!」
「ふむ……それならばお前達を試そう」
「「試す?」」
二人は首を傾げた。
「そうだ。自信が無いのにわざわざアレルに行っても返り討ちに遭うだけだろう。来週お前達とウチの闘技場のチャンピオンクラスとの試合を組んでやる。そいつらに勝てばお前達をうちの代表選手としてアレルの闘技場へ送り込む。強い奴と戦えて、宿敵にも会える。一石二鳥だろう」
「しかし、そんな悠長な事をしていては……」
「闘技者になったのなら奴等も当面はアレルに滞在するだろう。そんなに慌てる事はない」
「しかし……」
「しかししかしとお前はシカか! 師の言う事が聞けんのか!!!!」
突然のゴディバドフの叫びにナップとフロナディアは身を竦める。そしてナップは渋々と頷いた。ちなみにナップがゴディバドフを師匠にした覚えは無い。しかし、ゴディバドフの迫力には逆らえなかった。
「よろしい。うちの代表として行くからには向こうの代表に勝ち、男として巫女をしっかり取り返して、お嬢様と結ばれろ」
「わかりましたわ!」
「結ばれろ」その言葉を聞いてなぜかフロナディアが力強く返事をした。
ゴディバドフは内心ほくそ笑んでいた。
(アレルの闘技場は金があるからな、こいつらを送り込み一儲けできるかもしれぬ)
ゴディバドフは意外と銭ゲバであった。
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