サキュバスパンデミック20
昔々あるところに、プリムラというとってもプリティなサキュバスがいました。
プリムラは毎晩のように人間の住む街を飛び回り、寝ている男の人に幸せな夢を見せて、ちょっとだけ精力を貰って生きている、どこにでもいる普通のサキュバスでした。
ある日プリムラがいつものように空を飛んでいると、大きなお屋敷を見つけました。
すると、そのお屋敷のバルコニーにはとってもハンサムな男がいて、星空を見上げてため息をついていました。
プリムラはそのハンサムボーイに一目惚れしました。しかし、サキュバスと人間が結ばれるには、相手を永遠に夢の中に閉じ込めるしかありません。なぜならサキュバスは、人間の男と子供を作ることができないからです。
でもプリムラは、そうはしませんでした。男の人には片想いの女性がいたからです。プリムラは時々男の夢に入り込み、夢の中でその女性に変身し、一緒に過ごすだけで幸せでした。
ある日の夜、プリムラが男の夢に入り込もうと屋敷に忍び込んだ時、うっかり物音を立てて男の人を起こしてしまいました。顔を見られたプリムラは焦りました。きっと捕まって殺されてしまうと思ったのです。
しかし、男の人はプリムラを見ると、「あなたがいつも夢であの人と会わせてくれたのですね。ありがとう」とお礼を言いました。
それから二人は毎晩のように話をするようになりました。そしてプリムラは男の人をますます好きになり、男の人も少しずつプリムラを好きになっていきました。
二人が話すようになってしばらく経ったある日、プリムラがいつものように屋敷に行くと、男の人は泣いていました。男の人は片想いしていた女性に振られてしまったのです。
プリムラは男の人を慰めました。そしてこれはチャンスと、自らの愛を打ち明けたのです。男の人は驚き、プリムラの愛を受け入れました。
そして約束をしました。互いに知り合いに別れを告げ、明日の夜、二人で永遠の夢の世界に旅立とう、と。
その日、サキュバスの里に帰ったプリムラが、仲間達にその事を告げると、皆プリムラを祝福してくれました。そんな中、サキュバスの長だけはこう言いました。「人間の言葉を簡単に信じてはいけないよ」と。
プリムラは長の言葉を深くは受け止めませんでした。男と結ばれる事が決まり、すっかり浮かれていたのです。プリムラは皆にお別れを言い、夜になると屋敷に向かいました。
しかし、プリムラがウキウキしながら屋敷に着くと、男の部屋には人が二人いました。プリムラはこっそり窓から部屋の中を覗きます。
すると中では、男と、あの片想いの女性がエグいくらいイチャイチャしていたのです。
男は一度女性に振られ、ヤケになってプリムラと一緒になろうとしましたが、なんと翌日女性の方から告白されて恋人になったのです。
プリムラは部屋に飛び込んで言いました。「私と結ばれてくれると言ったのに」と。
すると、女性と結ばれるにはプリムラの存在が邪魔になった男は、プリムラを取り押さえ「衛兵を呼べ」と叫びました。
プリムラは衛兵に捕まり、牢屋に入れられてしまいました。「きっと殺されるんだ。あの時長の話をちゃんと聞いていれば」プリムラはそう思い、毎日毎日泣きました。
しかし、何日過ぎてもプリムラは殺されませんでした。
そのかわり、毎日毎日プリムラの元に衛兵達がやってきて、死にたくなければいい夢を見せるように命令しました。そして夢を見た後、衛兵達はいつも幸せそうな顔をして帰っていきました。
そのうち衛兵だけでなく、商人、教師、神父、貴族までもが、プリムラの元にやってくるようになりました。
毎日毎日沢山の人々に夢を見せ、少しずつ精力を貰い、プリムラはサキュバスとしてどんどん成長しました。そして沢山の人々の心を覗いたプリムラは、人間が毎日どれだけ苦しみやストレスを抱えて生きているかを知ったのです。
プリムラはもう、あの男の人を怒ってはいませんでした。だって人間は弱い生き物だから、社会の中で沢山の苦しみや悲しみを抱えて生きている。だから他人を裏切ったり、攻撃するのだと知ったからです。
やがてプリムラは牢屋から解放され、街の隅にこっそりとサキュバスの屋敷を建てて貰いました。
プリムラはそこに里から仲間達を呼び、より多くの男の人達を癒せるようにしたのです。プリムラ達は男の人達から毎日少しずつの精力を貰い、幸せに暮らしていました。
あの男も屋敷にやってきました。どうやらあの女性とは、喧嘩をして別れたようです。プリムラは土下座して謝る男を許し、いつかの日のように癒してあげました。
しかしある日の事です。夜行性のプリムラ達がお昼に寝ていると、街の女達が大挙して屋敷に押し寄せ、取り囲みました。彼女達は男達にちやほやされるプリムラ達が気に食わなかったのです。そして人と似た姿をしていても、魔物であるサキュバス達に容赦をしません。
彼女達はサキュバス達を縛りあげ、屋敷に火を放ちました。
炎が迫る中、プリムラは怒ってはいませんでした。ただただ人間達の弱さを哀れんでいたのです。
すると、プリムラの前にどこからか一人の老人が現れました。老人は魔王の使いだと名乗り、プリムラに問いました。
「哀れな人間共を救いたくはないかね?」
プリムラは頷きました。
こうして、新生魔王軍の一人「色欲のプリムラ」が生まれたのです。
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