奪還劇

 ゴロツキ共のアジトでは、薬で眠らされた少女が縄でグルグル巻きに縛られ天井から吊るされていた。

「随分手間取ったじゃないかゲニルの旦那」

 奴隷商の男は少女を品定めするように眺めた。

「ちょっと邪魔が入ってな、それより、見世物小屋に売り飛ばす算段はついてるんだろうな」

「心配するな、その辺は任せておけ、しかしこのガキならあと五年も待てば見世物小屋じゃなくても高く売れそうなもんだがね」

 奴隷商の口には下卑た笑いが浮かんだ。

「ちょっと味見しておくか」

 奴隷商はペロリと舌なめずりをする。

「やめとけ、縄を解いちまったらてめぇのナニが食いちぎられるぞ。こいつを一人捕まえるのに部下が何人もやられてる」

 ゲニルは苦い顔をした。

「そいつはおっかねぇな。こうしていればただのガキに見えるけどな」

「こいつはバケモノさ」

 その時、少女が目を覚ました。

「う……ん……ここはどこ?」

 そして先ほど男達に薬を嗅がされた事を思い出す。

「解いて! 誰か助けて!」

 ジタバタと暴れるが縄はビクともしない。

「うるせぇ、静かにしてろ」

「なんでこんな事するの!?」

「てめぇがバケモノだからだ」

「違うよ! 私はバケモノなんかじゃない! 人間だよ!」

「確かに半分は人間だ。だがな、瓶の水に一滴でも毒が入っちまったらそれはもう水じゃねぇ、半分も入っちまったならもう毒としか言いようがないだろ?」

「違う! 違う!」

 少女の肌がザワザワと波打つ

「ほれみろ、それは何だ? バケモノの毛が見え始めているぞ」

「いやぁ……!!」

 少女の体は獣化しようとしている。しかし締め付けた縄のせいで完全に変身ができないようだ。

「売り飛ばす前に部下をやられたお返しをしておかなきゃなぁ」

 ゲニルは立て掛けてあった棍棒を手に取った。

「バケモノは簡単に死なねぇだろ!」

「キャァァァァ!!」

 ゲニルが棍棒を振り上げたその時、フードを被った部下が二人アジトに飛び込んできた。

「ボス! 来ました! 奴らです!」

「なにぃ〜?良いところで邪魔しやがって」

 ゲニルはそう言うとアジトを飛び出した。

 フードを被った二人のうち一人が、剣を抜き少女の縄を切る。

「お前何してる!?」

 奴隷商がそう言った瞬間、電撃を纏った杖に触れられ気絶した。

「あなた達は?」

 少女がそう言うと二人はフードを取った。

「ムチャさん! トロンさん!」

 フードを被った二人の正体は変装したムチャとトロンであった。

「よう、ケガしてないか?」

 そこにゲニルが戻ってくる。

「おい! 見張りが全滅してるぞ! あいつらはどこに! ってお前ら!?」

「よう」

「てめぇら騙しやがったなぁ! へぶっ!?」

 ムチャの鉄拳がゲニルの顔面に突き刺さり、ゲニルは壁まで吹っ飛ばされる。

「光よ」

 トロンが唱えると杖から放たれた光の縄がゲニルを縛りあげた。

「てめぇら俺をどうするつもりだ!?」

 縛られたゲニルが唾を飛ばして喚いた。

「別にどうもしないよ、なぁ」

「うん」

 二人はうんうんとうなずき合う。

「てめぇら覚えとけよ。今日は逃げられても次はねぇぜ。次はあのガキ共を人質に取って必ず……」

「あ、そう言えばあんたに招待状が届いてたな」

 ムチャがゲニルの言葉を遮って言った。

「あ? 招待状?」

「わぁ! ムチャとトロンの爆笑スペシャルクイズからだ!」

「わーい」

 トロンがパチパチと拍手した。

「ほら、君も」

 トロンがうながすと訳のわからない様子の少女もパチパチと拍手した。

「てめぇらふざけてんのか?」

「さぁ、やって参りましたムチャとトロンの爆笑スペシャルクイズ!!さて早速第一問です。人間とウルフマンのハーフには何をしてもよい。◯か×か?」

「いいに決まってるだろ」

「はい不正解、トロンさんお願いします」

 トロンの杖からゲニルに電撃が浴びせられる。

「ギャァァァァ!!」

「さて次の問題です。子供を人質に取ってもいい。◯か×か?」

「お、俺は目的のためなら手段をえらばねぇ!」

「はい不正解、トロンさんお願いします」

 トロンの杖から電撃が浴びせられる。

「ギャァァァァ!!」

「さて次の問題です」

「ま……待て……」

「いたいけな少女を大の男数人で追いかけ回してよい。◯か×か?」

「ば……バツ」

「正解です。ではハッピータイムプレゼントです」

「おめでとー」

 トロンが杖を振ると例の羽箒達が現れた。例の羽箒達はいつもの仕事をする。

「ギャハハハハやめハハハハやめろハハハハハハ!!!!」

「さてそのまま次の問題です」


 ムチャとトロンの爆笑スペシャルクイズは二時間番組であった。

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