深夜の訪問者達

 遊び疲れた子供達は廃屋の広間で眠りについていた。しばらく眠れない生活が続いていたせいか、少女も穏やかな顔でぐっすりと眠りについている。

「トロン、起きてるか?」

 浅い眠りについていたムチャが目を開ける。

「うん」

 二人は起き上がり耳を澄ませた。不穏な気配を廃屋の入り口からビンビン感じる。

「朝まで待っていればこっちから挨拶に行ったのにな」

 ムチャとトロンは子供達を起こさぬようにこっそりと外に出た。

 そこには沢山のゴロツキ達とそのリーダーゲニルが待っていた。

「お休みのところ悪いな。お前らがムチャとトロンか」

 ゲニルが前に進み出た。

「ショーのオファーですか?あいにくスケジュールは埋まってるんだけどな」

「へっ、しゃらくせぇ」

 ムチャと男は視線を交え火花を散らす。

「あのガキを譲る気は無いんだな?」

「譲るも何も俺達のものじゃねぇよ、もちろんお前の物でもねぇ。あの子の笑顔はな」

 それを聞いた男は肩に乗せた極太の斧を両手に構えた。

 ムチャもそれに応え剣を抜く。

「やれ」

 男の合図でゴロツキ共が一斉に二人に襲いかかった。

 ムチャの剣の一振りで三人が一気に吹っ飛ぶ。

 剣を振り切ったムチャに、屋根の上から放たれた矢が襲いくる。その矢をトロンの杖が叩き落とすと、今度はトロンの背をゴロツキの剣が襲った。

「危ない!」

 トロンを襲った男をムチャの剣が弾き飛ばし、二人は背中を合わせた。

「こいつら狭い所で戦い慣れてやがる」

「やりづらい」

 そこにゲニルが振るった極太の斧が二人の背を裂くように振り下ろされる。二人は素早く離れるが、地を叩いた斧から放たれた衝撃で敵の前に投げ出される。

 路地の狭さと男達の連携により、二人はいつもの調子が出しきれていない。

「ガハハ、カッコつけた割には大した事無いな!」

 次々に襲い掛かる男達に二人は防戦一方だ。このままでは二人の敗北は目に見えていた。

「トロン離れてろ、使うぞ」

 ムチャの顔に覚悟を決めた表情が浮かんだ。

「いいの?」

「あぁ」

 トロンは杖を振り回し男達を振り切ると、大きく後ろに跳びムチャから離れた。

 ムチャは剣や斧を受け流しながら一瞬の隙を突き力を溜める。

怒剣どけん

 ムチャの体から赤いもやのようなものがゆらりと湧き上がり、その顔は一瞬で般若の形相に変わった。

憤怒衝ふんぬしょう!!」

 ズドン!!!!

 ムチャが地に剣を突き立てると、轟音と共に赤い雷のような衝撃が走り、数メートル以内にいた男達は一斉に吹き飛ばされ意識を失った。

「な、何しやがった!?」

 辛うじて部下に庇われた男は、ムチャの只ならぬ様子に後ずさる。

「使いたく無い技を使わせやがって……わかってんだろうなぁ?」

 ムチャの表情筋が怒りにピクピクと震えた。

「ひぃぃ!!」

「ムチャ」

 その時、トロンの杖がムチャの頭をゴツンと打った。

「いてっ!」

 ムチャの真っ赤に血が上った顔がスーッと元に戻る。

「悪いなトロン」

 屋根上の敵はトロンが魔法で倒したらしく、気がつくと二人の前に立っているのはゲニルだけになっていた。

「さて、こいつどうする?」

「笑ってもらう?」

 二人が顔を見合わせると、廃屋の裏手から悲鳴が聞こえた。


キャァァァァ!!


「どうやらタイムオーバーだな」

 ゲニルはそう言うと地面に玉を投げつけた。

 その瞬間、玉から出た白い煙が辺りにたちこめ、二人の視界を奪った。

「風よ」

 トロンが杖を振り煙が晴れた時には、既にゲニルは屋根の上に逃げ延びていた。

「ガキは預かるぜ、もっとも返す気は無いがな!」

 そう言い残し、男は去っていった。

 ムチャ達が廃屋の中に戻ると、中では子供達が泣いていた。

「おい、何があった!?」

 ムチャが子供達を問いただすと、

「お姉ちゃんが、お姉ちゃんが連れてかれちゃった」

「裏から悪い人達が入ってきて、お姉ちゃんを縛って連れていっちゃったの」

 そう言って子供達は再び泣き出した。

「ちくしょう! やられた!」

 ムチャは再び表に出る。外には何人かのゴロツキ達が倒れていた。その中の一人を捕まえると、そいつは奇しくも先日死ぬほど笑わせた男だった。

「おい、起きろ」

 ムチャは男の顔をはたき目を覚まさせる。

「う……ぼ、坊ちゃん、お久しぶりで……」

 男は精一杯の作り笑いを浮かべた。

「アジトの場所、教えて」




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