ある朝の事

 それは、ムチャとトロンが闘技場での三回戦を数日後に控えた日の朝の事である。

「ムチャ、起きて」

 いつまでたっても起きてこないムチャの布団を、トロンはポムポムと叩いた。しかし、ムチャは布団を頭まですっぽり被ったまま微動だにしない。

「今日はネタの練習するんでしょ?」

 トロンがこんもりと盛り上がった布団に問いかけたが、返事は無い。日はすでに高く昇っている。トロンはしびれを切らし、ムチャの布団を引っぺがした。

「うーん……」

 そこには芋虫のように丸まっているムチャの姿があった。しかし、様子がどこかおかしい。顔がほんのりと赤く、呼吸がどこか苦しげである。

「ムチャ?」

 トロンは丸まっているムチャの額に手を当てた。

「……熱い」

 ムチャの額は熱を帯びており、僅かに汗が滲んでいる。

 すると、ムチャは僅かに目を開けて、一言ポツリと呟いた。


「風邪だ」


 トロンはコクリと頷いた。

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