異次元の傀儡師

「ぐっ!?」

 吹っ飛ばされたムチャは何をされたのかわからなかったが、遠目に見ていた観客達はその瞬間をはっきりと見ていた。試合開始の合図とともに、ギャロの体には不釣り合いな程に長い腕がアッパーカットのように振り上げられ、ムチャの体を吹っ飛ばしたのだ。

「ムチャ!」

 そしてギャロの第二撃が、トロンへと襲いかかる。トロンはそれをバックステップで素早く躱し、ムチャの隣へと移動する。

「いててて、早いし重いな」

「うん。気をつけて」

 二人の間に割って入るように、ギャロが腕を振り上げて突進してくる。ギャロは腕を振り下ろしたが、二人はそれを左右に分かれて躱した。振り下ろされた腕がリングを砕く。

「うへぇ! あの人形何でできてるんだよ!?」

「知らない。でも」

「操り人形なら、こうすれば……」

 ムチャは刃の潰れた剣を抜き、大上段からポロロとギャロのちょうど中間辺りを斬りつけた。そこにはギャロとポロロを繋ぐ糸がある。そこを絶ってしまえば、あとは動かぬ人形と武器を持たぬ少年が残るだけだ。が、しかし。


 バイーン


 ギャロとポロロの間に張られた糸は、オモチャの弦楽器のような音を立ててムチャの剣を弾いた。いや、ムチャの攻撃を跳ね返した。ムチャが剣を振り下ろした力と同じだけの力が糸からムチャの剣に跳ね返り、剣を握りしめていたムチャは後方へゴロンと一回転する。

「ならプラン2だ! トロン!」

「うん。炎よ」

 トロンは杖から威力を軽減した火球を放つ。威力は加減してあるとはいえ、その分魔力のタメは少なく、発射速度は早い。放たれた火球がポロロへ迫る。ポロロは腕を交差させ、素早くギャロを引き寄せた。そして、ギャロを飛んできた火球へとぶつけたのだ。火球が弾け、ギャロを火炎が包み込む。

「あいつ、相方を盾にしたな」

「案外冷酷?」


 しかし、爆炎が晴れた時、そこには傷一つ、焦げ跡一つ付いていないギャロが立っていた。


「僕は冷酷にはなれない。信頼があるからこそこんな事ができるのさ」

「けけけ、お前らこの前俺の話を聞いていたのか?」

「ギャロは全てと引き換えに魔女から永遠の命を与えられた。永遠の命とはつまり、絶えぬ魂と」

「無敵の肉体ってわけだ。肉は付いてねぇがな、けけけ」


 ムチャとトロンはポロロ達の迫力に押され思わず後ずさりする。


「爆笑陣効くかな?」

「たぶん。いや、どうだろう……ポロロはともかく、ギャロの方は笑ったとしても動きを止められるかどうかわからねぇ」

「喜笑点穴は?」

「ギャロにはたぶん効かない。ツボが無いだろうしな」

「じゃあ、やっぱりポロロ君狙いだね」

「ギャロの方頼むぞ」

「うん」

 ムチャはポロロに向かって駆け出した。そこにギャロが素早く立ちはだかる。すると、ギャロの側面から自らに肉体強化の術を掛けたトロンが杖で殴りかかった。その隙にムチャはギャロを躱してポロロへ迫る。

「もらったぁ!」

 ムチャはポロロに対して助走をつけた蹴りを放った。

「それ、言ったらダメな台詞だよね」

 ポロロはギャロと繋がれている糸を切り離す。すると、トロンと押し合いをしていたギャロの力が抜け、ドサリと崩れ落ちる。そしてポロロはムチャに向かって手をかざした。


 プススススス


 ムチャの体にポロロの手から放たれた十本の糸が突き刺さる。

「あれ?」

 すると、ムチャの体が空中でピタリと動きを止めた。そしてポロロはムチャを地面に着地

「ギャロ、ちょっとだけゴメンね」

「へっ、嫉妬するぜ」

 崩れ落ちたギャロは、目の前に立つトロンを見上げながらけけけと笑った。

「おい、おいおい、これどうなってんだ?」

 ムチャはギギギとぎこちなくポロロに背を向け、トロンの方を向いた。


「奥の手その一、相方交代」


 ムチャはトロンに向けて、剣を構えた。

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