回想2

 ムチャとケンセイを乗せた馬車は、巨大な寺院の入り口の前に止まった。


「俺は用事を済ませてくるから、お前はどっかぶらぶらしておけ」

「うん」

 馬車から降りたケンセイはそう言うと、寺院の奥へと向かって歩いて行った。

 手持ち無沙汰になったムチャは、寺院の中をぶらぶらと散歩して回った。寺院の敷地は広大で、立ち並ぶ柱の隙間を縫うように多くの参拝者や教徒達が歩いていた。

 ムチャはその中に、白いローブに身を包んだ少女達の一団を見つけた。

「なんだあれ?」

 少女達は皆不気味な程に無表情で、何を思っているのか全くわからない顔をしている。

「なぁ、あいつらは何なんだ?」

 ムチャは手近にいた男に聞いてみた。

 すると男は答えた。

「あいつらなどと無礼な事を言うでない。彼女らはこの大陸のあちこちから集められた感情の巫女の候補者達だ」

「感情の巫女?」

「四人の女神様の神託を受け、世界を導く者の事だ」

「ふーん……なんでみんなあんな顔してるんだ?」

「巫女様となれば、女神様の信託を受けるために邪魔になる己の感情は全て消さねばならぬ。彼女らはその為の修行の一環として表情を面に出さぬようにしているのだ」

「ふーん……」

 ムチャはそれを聞いてローブを身に纏った少女の一人に近づいた。

「なぁ」

 ムチャが声をかけると、少女は表情を変えぬままムチャを見た。

「何か?」

 ムチャは一度少女に背を向けて再び振り向く。その顔は白目を向いており、両の鼻の穴には指が突っ込まれていた。

「ぶふぉっ!」

 少女は思わず吹き出した。

 ムチャはその顔のまま少女達の周りを滑稽な動きをしながら回り出す。

「ぐふっ!」

「ぶっ!」

「えひっ!」

 少女達は堪えきれず、笑いの連鎖が巻き起こった。

「こら貴様! 何をしておる!」

 剣を持った男達がムチャに向かってくる。

「お前ら、まだまだ修行が足りんな!」

 少女達にそう言ってムチャは逃げ出した。

 少女達は恨めしそうな顔をしてムチャを見送った。

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