ケセラ、再び

 ミモルのお見舞いに行ったその日の夜の事。

 深夜までネタ作りに精を出していたムチャとトロンは、寝巻きに着替えベッドに入る事にした。

「じゃあ、おやすみ」

「おやすみー」

 ランプの明かりを消し、二人が手探りでベッドに潜り込もうとした、その時である。


 ガタガタ……


 部屋の窓が音を立てた。それは風や虫ではなく、人為的なものに聞こえた。

(ドロボウかな?)

(でも、ここ二階だぞ)

 ムチャとトロンの泊まっている宿にベランダは無い。つまり、窓を揺らした者は垂直な壁に張り付いているか、宙に浮いているという事だ。それはすなわち、ただの人間では無いという事である。

 ムチャはベッド脇に立てかけていた剣を、トロンは杖を手にして、窓側の壁に張り付く。窓を揺らす音はすぐに収まり、カーテン越しに一瞬だけ魔力らしき光が灯る。


 カチャッ……キィー……


 錠が外れる音がして、窓がゆっくりと開かれる。何者かは開錠の魔法を使ったようだ。

 ムチャとトロンはそれぞれが手にした得物をグッと握りしめ身構えた。

 そして、何者かは開いた窓から音を立てないようにそーっと部屋に侵入する。

「動くな」

 ムチャは侵入してきた何者かの首に、鞘のついた剣をピタリと突き付けてかっこよく言った。ちなみにこれはムチャのやってみたかったシーンランキング八位である。

「あわわわ! 私は怪しい者ではありません!」

 そう言った侵入者の声は、何やら聞き覚えのある声であった。

「光よ」

 トロンは杖に光りを灯す。光に照らされた侵入者の姿は、やはり二人の見知った人物であった。

「あれ? ケセラ?」

「ど、どーも、こんばんは」

 ムチャに剣を突きつけられて冷や汗をかいている侵入者の正体は、以前クフーク村で二人の部屋に現れたサキュバスのケセラだったのだ。相変わらずサキュバスの正装である下着よりも際どい服を着ているが、あまりボンキュッボンではないためにそんなにエロスでは無い。

 ムチャがケセラの首元から剣を離すと、ケセラはホッと息を吐いた。

「どうも、あなたの夜のお供、エリートサキュバス見習いのケセラです」

 ケセラは営業スマイルを作り、二人にVサインを突きつける。

「酒のつまみかよ!」

「お久しぶり……って程でもないですね。お二人ともお元気でしたか?」

「おう、元気だ」

「元気元気」

「あ、ムチャさんの息子さんはお元気ですか?」

「今寝てるよ! 下ネタは止めろ!」

「起こしましょうか?」

「寝た子は起こすな!」

「しかしお二人とも遅くまで起きてるんですねぇ。ナニしてたんですか?」

「何のイントネーションがおかしいだろ!」

「お邪魔しちゃいました?」

「もう寝るところだから、お邪魔じゃなくてパジャマ着ちゃいました」

「お、トロンうまいな……じゃなくて、何しに来たんだよ」

「ナニしに来ました」

「それはもういいよ!」

 この三人、案外トリオでもやっていけそうだ。


「実は、お二人に警告があって来たのです」

「「警告?」」


 ケセラはちょっとだけ真面目な顔になった。

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