ナップの回想23
フロナディアは気合いと共に剣を振りかざし、グリムへと突進した。
「なるほどねぇ、感情術使いか……」
呟いたグリムの野太刀から青白い煙のようなものがモヤモヤと湧き出し、不気味な声を闘技場に響かせた。フロナディアがそれに気付いた時にはもう遅い。グリムが野太刀を振り、放たれた青白い煙が直進してくるフロナディアへと飛ぶ。野太刀から飛んだ青白い煙は人の形となり、フロナディアへと襲いかかった。
(しまった!)
フロナディアがそう思った時だ。フロナディアの体はナップにより突き飛ばされた。青白い煙はナップに直撃し、全身に纏わりつく。謎の煙により急激に体温と気力を奪われ、ナップはリングに膝をついた。
「貴様……怨霊使いか」
「かぁー、健気なもんだね。いかにも俺は怨霊使いでこいつは怨刀さ」
グリムはニヤリと口を歪める。
「ナップ様、なぜ……」
フロナディアがナップに駆け寄ろうとするのを、ナップは掌で制した。
「申し訳ありません……私は鈍い男なので、あなたが無茶をする心中を察する事はできません。私にできる事はただ、守りたい人を守るために動く事だけなのです」
怨霊はズブズブとナップの体へと侵入を開始し、肉体と心を侵食し始める。ナップの体がガタガタと震えだした。
「感情術ってのは心の力で戦うんだろ? それなら心を侵食されたらどうなるのかな? ま、感情術使いじゃなくても立ち上がれはしないだろうけどな」
グリムの言う通り、ナップは立ち上がろうとしたが、体が言う事をきかずに立ち上がれずにリングへと体を伏した。感情術を発動させようとしても、心の力を怨霊に吸われてしまい、まともに気を貯める事もできない。
肉体と精神を侵食され始めたナップの意識が徐々に薄くなってゆく。
その様子を見てフロナディアは愕然とした。
「私のせいで……」
フロナディアの想いは尊い。しかしそれが実戦において勝利へ導くとは限らない。想いにまかせて戦う事で、最悪の結果を招く事もある。それが現実だ。どれだけ強い想いを抱えていても、愚直に突っ込むフロナディアはグリムからすればただのカモに過ぎなかったのだ。
「フロナディア様、お逃げ下さい」
ナップは怨霊が奏でる絶望と、全身を包む悪寒に唇を震わせながら言った。絶望感と寒気がナップへとのしかかる。もはやナップの意識は暗闇へと閉ざされようとしていた。
「あーあ、お嬢さんを怨霊で黙らせてこいつとやり合いたかったのになぁ」
グリムはリングに倒れガタガタと震えているナップに歩み寄ると、ナップの頭を踏みつける。しかし既にナップの全身からは感覚すらほぼ消えており、痛みさえ感じない。
「殺すか」
グリムがナップの背に野太刀を突き刺そうとしたその時、フロナディアがグリムへと剣を振る。
グリムはそれを軽々と躱し、フロナディアへと野太刀を向けた。
「弱い女を斬るのは趣味じゃねぇが、邪魔するならお前も斬るぞ」
「やれるものならやってみなさい」
フロナディアには自分を庇ったナップの姿と、あの日命を賭して幼いフロナディアを助けてくれた兵士達の姿が重なって見えた。
「今度は私が守る番です」
「……度胸だけはあるな。少し遊ぼうか」
フロナディアとグリムの一騎打ちが始まる。
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