初日4

 武術学科の授業を終えて、運動着からローブに着替えたムチャとレオが寮に帰る途中、魔法学科の校門の前でぼんやりと立っているトロンを見つけた。

 レオは「お、ハニーちゃんだぜ! ごゆっくり」と言うと、ムチャが引き止める間も無くどこかへ走り去ってゆく。


 ムチャはなんとなく気恥ずかしかったが、どことなくしょんぼりしているトロンに声をかけた。

「よっ。待ってたのか?」

 トロンはコクリと頷き、ムチャに並んで歩き出す。

「ムチャ、学校どうだった?」

「ん? あぁ、まぁまぁ楽しかったよ。友達もできたし」

「そっかぁ……」

 学校で何かあったらしく、トロンはやはりしょんぼりとしている。

「何かあったのか?」

 ムチャが問うと、トロンはまたコクリと頷いた。

「魔法の授業でね、失敗しちゃった」

「トロンが魔法で失敗? 何やらかしたんだよ?」


 トロンはポツリポツリと語り出す。

「あのね、魔法を的に当てる練習の時、張り切り過ぎて的をこなごなにしちゃったの。それからね、飛行魔法の練習の時、景色が良かったから一人で湖の方まで飛んで行ったら先生に怒られて、読心魔法の練習の時には女の先生に「独身なんですね」って言って怒られた」

 それは実にトロンらしいエピソードの数々であった。

「うーん……まぁ、次から気を付ければいい事ばっかだし、そう落ち込むなよ」

 ムチャはトロンの肩をポンポンと叩く。

「でも、もしトロンが辛かったらいつでもここを旅立ってもいいぞ。俺達の本業は学生じゃなくてお笑いコンビなんだからな」

 ムチャのその言葉で、トロンの顔が少し明るくなった。

「そうだね、でも大丈夫。もうちょっと頑張ってみる」

 トロンはエスペリアの嫌がらせの事は言わなかった。そちらの方はトロンにとって取るに足らない事であったから。


 それから二人は新しいネタについて話しながら寮へと帰った。

 こうして、割と派手な学生デビューを果たした二人の学校生活初日は幕を閉じたのであった。

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