サキュバスパンデミック8

 地下通路の出口まで辿り着いた四人は、頭上にある戸を頭で持ち上げ、顔だけ出して辺りを伺う。辺りにサキュバス達の姿はなく、どうやらここは男子寮の裏手のようだ。ここで先輩であるボンバス達が、寮長の目から逃れてこっそりタバコを吸っていた事をムチャは覚えている。その証拠に、少し離れた所には、まだ新しいタバコの吸い殻が落ちており、その側には黒い球が一つ鎮座していた。どうやらボンバスも今頃夢を見ているのだろう。


「よし、行くぞ」

 戸を完全に押し上げ、ムチャ達はこっそり地下通路から這い出した。そしてそのまま寮の裏口へと向かう。警戒しながら寮の中に入ると、あちこちに球が点在しており、サキュバス達から激しい襲撃を受けた事がわかる。しかし、サキュバス達の姿は見当たらず、既にどこかに去って行った後のようだ。


 普段は賑やかな寮内が今は静まり返っており、食堂兼ロビーの壁に貼られている「女人禁制!」とデカデカと書かれた張り紙が、剥がれかけてゆらゆらと虚しく揺れている。


「レオとリャンピンは、ここでサキュバス達が来ないか見張っていてくれ。俺達はアレを取ってくるから」

 ムチャの言葉にレオとリャンピンは頷き、それぞれ窓の前に陣取る。ムチャとトロンは二階に上がり、ムチャの部屋へと入った。


 部屋の中にもサキュバスの姿は無く、のんびりはしていられないがホッと一息つく。ムチャは机の上に置いていた自分の鞄を開けると、目的だったソレを手に取る。


「ムチャ! 危ない!」


 突然、トロンが叫んだ。


 ガッシャーン!


 次の瞬間、窓が割れて部屋の中に数体のサキュバス達が飛び込んでくる。そしてその勢いのままムチャに飛び掛かり、床に押し倒した。


 トロンはムチャの救援に向かおうとするが、飛びかかってきた二体のサキュバスに杖を掴まれて壁際まで押し込まれる。


「ぐぬぬぬぬぬ……!!」

 ムチャは額を押し付けてこようとするサキュバスの顔面を両手で必死に押し返そうとするが、サキュバスの力は並の男よりも強く、今にも押し込まれそうだ。しかもそのサキュバスがフェアリーボールクラブのマネージャーである事も、まるで悪い冗談のようである。

「参謀〜、いいじゃありませんかぁ〜。私と夜のフェアリーボールを……」

「言うな!」

 剣を抜こうにも、床に背を押し付けられていては剣を抜く事はできない。感情術を使おうにも、集中しているうちにやられてしまうであろう。


 コロン


 絶体絶命のムチャの目に、押し倒された時に手放してしまったアレが映った。


「こうなったら、イチかバチかだ!」


 ムチャは覚悟を決め、ソレに向かって手を伸ばした。

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