ニーナへの追求

 ニーナはランプを手に持ち、暗い屋敷の中を見回っていた。二階の廊下を見回り、階段を下りる。そして一階の食堂の扉を開けた時、ランプの明かりが一つの人影を照らした。


「きゃっ!?……あなたは?」


 そこにはトロンが立っていた。


「こんばんはニーナさん」

 トロンは暗闇の中で立ったままニーナを見つめている。

「と……トロンさん。脅かさないでくださいよ。こんな時間に何を?」

「すいません。ちょっと、ニーナさんにお話があって」

 そう言ってトロンは食堂の椅子に座る。

「私に話? 何かしら」

 ニーナもトロンに習い椅子に座った。

「昼にニコルの部屋から出てきましたよね。中で何をしてたんですか?」

 ニーナは首をかしげた。

「それは……さっき言った通り掃除をしていたのよ。それが話?」

「いえ、本題はこれからです。ニーナさん、あの時部屋の中でニコルにおでこを当てていましたよね?あれは何をしていたのですか?」

「何? あなた覗き見していたの? あまりいい趣味じゃないわね」

「すいません……で、何をしていたのですか?」

 ニーナはふぅと息を吐いた。

「今朝坊っちゃまの体調が悪そうだったから熱が無いか見てたのよ。別に変な事はないでしょう? 坊っちゃまに仕えるメイドとして」

「そうですね。でも主人に洗脳の魔法を使うのはどうなのでしょうか。メイドとして」

 ニーナの額に一筋の汗が伝った。

「洗脳の魔法? 何の事かしら?」

「あなたはニコルに洗脳の魔法を使い、自分を愛するように仕向けた。そうですね?」

「私は魔法なんて使えないわよ。変な事言わないでちょうだい」

「そうですか……雷よ」

 トロンは立ち上がり、手にした杖に魔力を込め、ニーナに向かい弱い雷を放った。

「きゃあ!」

 しかし、雷はニーナに当たる直前で霧散した。

「ちょっと! トロンさん何を……」

「おかしいですね、魔法を使えないあなたがなぜ魔法障壁を張れたのですか?」

 ニーナはハッとした。

「そ……それは……」

「ニーナさんはリベラさんがニコルを外に出すのを止めていましたね。あれはニコルがあなたから離れる事によってニコルへの洗脳が弱まるのを恐れての事だったんですね」

「ち……ちが……それは……」

「白状してくださいニーナさん。あなたはニコルを自分に都合のいいように洗脳してどうするつもりだったのですか?」

 突然、それまで必死に弁解しようとしていたニーナは黙り込み、下を向いた。そしてゆらりと椅子から立ち上がる。

「……バレてしまっては仕方ないわね」

 ニーナは魔力を込めると、手のひらに火球を生み出す。

「あなたには消えてもらうわ」

 ニーナの目がギラリと光った。

「それがあなたの本性ですか?」

「私の本性? そんなもの見せる前にあなたには消えてもらう。ごめんなさいねトロンさん」

 ニーナがトロンに火球を放とうとしたその時、食堂のドアから数人の人影が駆け込んできた。

「ニーナやめて!」

「に……ニコル坊っちゃま!?」

「まさかあんたが犯人とはな」

「ニーナ……あなた……」

 駆け込んできたのはニコル、ムチャ、そしてリベラであった。

「観念するんだな」

 ムチャがニーナに剣を向けた。

「私達を倒しても、ニコルはドアの外で今のやりとりを聞いていました。もうあなたの計画通りにはいきませんよ」

 ニーナは火球を収めてがっくりと膝をついた。


「まさか……まさかこんな所で……」


 そしてニーナはこの場にいる全員が予想だにしない事を口にした。

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