ミスコンテスト3

「続いての出場者は! エントリーナンバー十三番、ムイーサの刺客がミスコンにも殴り込みだ! おてんばお嬢様、ミス・フロナディア!」


 それはムチャにとって意外な人物の登場であった。

 ムチャとフロナディアはライブの記念パーティーで少し話をしただけの仲であったが、立ち振る舞いや喋り方に品があり、とてもミスコンなどという俗なイベントに出場するようなタイプの女性には思えなかったからだ。

 しかし、「トロンさんとは駆け落ちですの!? 駆け落ちですの!?」となぜか目をキラキラと輝かせながらグイグイと問い詰めてきたフロナディアの姿を思い出したムチャは「まぁ、普通のお嬢様ではないものなぁ」と心の中で納得する。

 実はフロナディアはムチャとトロンのライブ開催決定パーティーの時に、マニラに頼み込まれてミスコンに参加する事になったのであった。


 フロナディアは観客の拍手と歓声に頬を赤らめながらも、うやうやしい礼で応えて列に並ぶ。

「全く、フロナディア様にミスコンに出場しろなどと……」

 ムチャの真後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、ムチャは驚いて振り返る。そこにはいつの間にかナップが座っていた。

「のわ! お前らまだアレルにいたのか!」

「ふん、フロナディア様がお前と巫女様のライブを観てから帰りたいというから仕方なく滞在しているのだ」

 ナップはフロナディアのミスコン参加に反対していたのだが。

「あら、恋人さんが反対するのなら仕方ないわね。それにしてもあなた中々いい男じゃない」

「マニラ殿、あまり顔を近づけないで貰いたい……それに私とフロナディア様は恋人ではない」

「そうなの? なら反対する権利は無いわね」

 というやり取りがあり、フロナディアはミスコンに参加する事になったのだ。

「さて、いよいよ最後の出場者の登場です!」

 ムチャは背後のナップの存在が気になったが、司会者の声を聞いてステージに向き直った。


「エントリーナンバー十四番、彼女は「最強の芸人」の片割れとして、先日闘技場をケルナ闘技場の代表との試合で湧かせてくれました! 果たしてミスコンでは勝利を掴めるのか!? トロン嬢の登場です!」

 観客席からこれまでで一番多くの拍手が巻き起こった。ムチャとナップはグッと前に乗り出し、トロンの登場に身構える。すると、舞台袖からいつものローブを着ていつもの杖を持ったトロンが現れた。何やら緊張しているのか恥ずかしいのか、前を見ずに俯いたままステージ中央まで歩いてくる。その様子に、観客達から「がんばれー!」と応援の声が上がった。

 しかしムチャは違和感を覚えた。「あの鋼の心臓を持つトロンが、ミスコンとはいえ舞台で緊張するはずが無い」と。

 舞台中央に立ち止まったトロンは、一拍空けて勢い良く顔を上げた。


 その顔には、鼻眼鏡がかけられていた。


 それまで盛り上がっていた会場が急に静まり返る。

 鼻眼鏡が見えないように、トロンは恥ずかしがるフリをして顔を隠していたのだ。

「よーし、つかみはいいぞトロン!」

 親指を立てて満足げに頷くムチャとは対照的に、ナップは青ざめた顔をして、盛大に滑ったトロンを見ていた。

 トロンは鼻眼鏡をカッコよく外すと、まるでサングラスを捨てるスーパースターのように観客席に投げ捨て、美女達の列に並ぶ。宙を舞った鼻眼鏡は、奇跡的にギャロの顔にスポッとはまった。

 列に並ぶ時、トロンはフロナディアと目が合った。フロナディアの目はメラメラと燃えており、「試合では負けましたが女としては負けませんわ」と語っている。トロンはフロナディアにナップと似たようなものを感じ、ちょっとゲンナリとした。


「えー……皆さんご存知の通り、彼女は闘技者でありながらお笑い芸人をしておりまして……まぁ、いいか。さて、全ての出場者が出揃いました! これからはアピールタイムとなります! お手洗いは今のうちに!」

 美女達が観客席に手を振りながら舞台袖にゾロゾロと引っ込んでゆく。果たしてミスコンに優勝するのは誰なのか?

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