クリバー学園の怪談15

 トロンとヨチは、どこかに行ってしまったニャンピンを探して、校舎内を彷徨っていた。そして二度聞こえた悲鳴を頼りに、三階にいたレオの元へと辿り着く。

「あ、いたいた」

 するとそこにはニャンピンに顔面を引っ掻かれ、大きな爪痕をつけられたレオと、レオにじゃれつくニャンピンがいた。

「おぉ、トロン! ちょっと助けてくれよ! リャンピンがおかしくなっちゃってさ」

「あれ? ムチャは?」

「それがさ! なんかマジもんの幽霊と遭遇してさ! 驚いて逃げ出したんだけど、逃げる途中ではぐれちゃったんだよ」

「幽霊って、もしかして……」

 すると、トロンの背後からヨチがヌゥッと姿を現わす。

「さっきは驚かせてごめんなさい」

 ヨチの姿を見たレオは驚いて大きく跳び上がった。

「でたぁ! それ! その幽霊!」

「レオって結構怖がり?」

 トロンはレオにヨチを紹介し、リャンピンがニャンピンになった経緯も説明した。


「はぁー、なるほどなぁ。でも、さっきは大げさに驚いてごめんな。それから、勝手に校舎に入って悪かった」

 レオは謝り、ヨチに軽く頭を下げる。

「いえいえ。でも呪いの道具の保管庫に入っちゃうのは困るわ。この子みたいに呪われちゃうから」

「ごめんなさい」

 今度はトロンがヨチに頭を下げた。

「でもよぉ、リャンピンが猫みたいになった理由はわかったけど、なんでリャンピンは俺の所に来たんだ?」

 ニャンピンにじゃれつかれながら、レオはヨチに尋ねる。ヨチは少し考えて答えた。

「猫っていつも居心地の一番良い所を探すでしょ。だから、一緒にいて一番居心地の良いあなたの所に行ったんじゃないかしら?」

「えぇ!? まさかぁ……」

 レオはニャンピンの顔を見る。その顔は実にリラックスした穏やかな顔をしている。

「その割には引っ掻いたりしてきたけど」

「猫は女の子と一緒でデリケートで気まぐれなのよ。ちゃんと考えて接しないと、引っ掻かれたり逃げられたりしちゃうわ。あなた女の子にモテないでしょ?」

 ヨチの言葉がストレートにレオの心にドシュッと音を立てて突き刺さる。

「図星かしら。 女の子にモテたかったら、その辺ちゃんと考えて、理解しなきゃね」

 そう言うヨチも実は恋愛経験は無く、恋愛の知識は恋愛小説でしか得ていないのだが、言っている事は的を射ていた。レオは社交的なのに恋愛を意識すると、いつもエロスや虚栄心に囚われて、ちゃんと相手の気持ちを考えて接する事ができていなかったのだ。だから、女友達はいても恋人はできなかった。むしろ好きになる程嫌われてしまう事もあった。

 以前、フラれて落ち込んでいるレオにリャンピンが声をかけてくれた事があった。


「レオって的当ては得意なのに、女の子のハートを射抜くのは苦手なのね」

「上手い事言ったつもりかよ」

「的当てってさ、ただ真っ直ぐに弓を引いて打ち抜くだけに見えて、風の向きとか強さとかちゃんと計算するでしょう? 女の子のハートだって同じよ。ちゃんと相手の気持ちを考えて、そのうえで邪心のない真っ直ぐな気持ちで撃ち抜かなきゃ 」

「お前それがわかってて、なんで的当て下手なんだよ」

「そういう事言うのもモテない要因ね。そんなんだから私の頭のお団子も触れないのよ」


 レオはふとニャンピンを見た。

「お前の言う通りだな。エロス故に、エロス叶わずって事か」

 そしてそっとニャンピンの頭を撫でる。

「よし、リャンピンがこのまま猫になるのも困るし、元にもどしてやるか」

 レオがそう言うと、トロンはリャンピンの手首にかかっているブレスレットを指差す。

「そのブレスレットを外して」

「これか?」

 レオはリャンピンの手首に手を伸ばした。

 すると。

「ふしゃー!」

 ニャンピンは急に怒りだし、レオの手を引っ掻いて跳び退く。

「痛っ! 何するんだよ!」

「どうやらタダでは外させてくれないようね」

 ニャンピンは威嚇するように歯をむき出しにして、三人を睨みつけている。無理に外そうとすると逃げ出してしまうか、下手すれば戦闘になるであろう。

 レオはニャンピンのブレスレットを外す方法を考えた。

「女の子は猫と一緒で、デリケートで気まぐれ……そしてもう一つ、共通点があるよな」

 そしてトロンに耳打ちをする。

「なる程、わかった」

 トロンが頷いて、杖に魔力を込めると。


 ポムン


 レオの手に、一本の猫じゃらしが現れた。

「女の子と猫の共通点はデリケートで気まぐれ。そして……案外単純!」

 レオがそれをフリフリと振ると、ニャンピンは目を輝かせてそれに飛びついた。

「うにゃう! うにゃ! みゃう!」

 ぴょんぴょんと飛び跳ねるニャンピンの手から、レオはスッとブレスレットを外す。

「うみゃ! うにゃ……あれ?」

 すると、ニャンピンはあっさりとリャンピンへと戻った。

 それを見て、トロンとヨチはホッと胸を撫で下ろす。


「あれ? 何でレオがここにいるの?」

 元に戻ったリャンピンを、レオは真剣な目でジッと見つめる。

「リャンピンお前、前に女の子のハートは的当てと同じって言ってたよな?」

「う、うん」

 レオの真剣な眼差しに射抜かれ、リャンピンはなぜか目をそらす事ができなかった。

「お前のお団子を、触らせてくれないか?」

「な、何よ急に!」

「頼む。前からずっと触りたかったんだ」

 それは矢のように真っ直ぐな言葉と眼差しであった。急なお願いにリャンピンは戸惑い、何度か口をパクパクさせると、やがて小さく頷く。

「い、いいけど……グシャってしないでよね」

 そしてスッと頭を差し出し、目を閉じた。

 レオはお団子にそっと手を伸ばす。

 そして触れた。


 ムニュ


「え?」

 レオが触れたのは胸の方のお団子であった。

「やっぱりストレートな言葉が一番だよな。頼んでみるもんだ。変に恥ずかしがると相手も恥ずかしいもんな、うん」

 レオは頷きながらムニュムニュと指を動かす。

 リャンピンはさり気なく、普段は決して外さない超重リストバンドを外した。

「ふっざけんにゃぁぁぁぁぁぁぁぁあ!」


 ボゴォン


 史上最強の猫パンチが、レオの顔面にめり込んだ。

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