学園祭6
その後、ハニーニョとエスペリーノはファンクラブの会員達に追われる事なく、楽しいデートをした。エスペリーノは最初こそぎこちなかったものの、意外と男役にノリノリで、無駄に男らしくカッコよく振る舞う。それがとても絵になっており、ハニーニョは心は男でありながらドキドキしてしまった。そして、エスペリアは普段ハリーノにこのように振舞って欲しいのかもしれないという勉強になった。
止むを得ずの手段であったが、案外性別を入れ替えたのも悪くはなかったのかもしれない。ハニーニョもちょっとだけ女の子らしく振舞ってみたが、エスペリーノが渋い顔をしたのでやめた。それから、エスペリーノが無駄に女子に声を掛けられるのでちょっとだけヤキモチを妬いた。むくれるハニーニョにエスペリーノは言った。
「僕の瞳に映るのは君だけさ」
ハニーニョは心のモテノートにそのセリフを書き残した。
やがて夕方になり、時計塔の鐘が五回鳴り響く。
二人はムチャとトロンのライブを見るために、校舎からメインステージへと向かった。
ステージのに着くと、丁度魔法演劇部のファンタジーミュージカルが撤収をしているところで、前方に並べられた桟敷きと、その後方の椅子の席は全て埋まっており、二人は立ち見でステージを見る事となった。上空には杖や箒で浮遊しながらステージを見ている者達もいる。
そして撤収が終わると、司会を務めている高等部の生徒が高らかに声をあげた。
「さぁさぁ皆様お待たせいたしました! 続いては何かと学内を騒がせているお二人の登場です。演目はお笑いとなっております!」
それを聞いて観客席がワッと沸いた。皆司会の言う通り、何かと校内を騒がせている二人の登場を楽しみにしていたのであろう。
「校内気になる女子生徒ランキング十位であり、その魔法の実力は先生達をも驚かせるトロン嬢と、小中高合わせても武術学科にて彼に敵う者は無し、その身体能力であらゆる運動クラブからの勧誘を受けるムチャ少年の登場ですっ!!」
多くの拍手がステージ上へと降り注ぐと、舞台袖から噂の二人が元気よく飛び出した。
「どうも! ムチャです!」
「トロンです!」
「「よろしくお願いします!」」
二人の挨拶で更に大きな拍手が起こると、ムチャが「まぁまぁ」とジェスチャーをして拍手を収めた。
「ネタの前にまず、みんなに謝らなきゃいけない事がある。もう噂で聞いている人もいるだろうけど、昨日のサキュバス達の襲来は俺たちのせいなんだ」
ムチャの発言で、盛り上がっていた会場がにわかに静まり返った。
「俺達が呼んだってわけじゃないけど、俺達がいなければあいつらが来る事は無かった。だからまずはその事を謝らせてくれ。本当にごめん」
二人は皆に向かって深々と頭を下げる。
静まり返っていた観客達が今度はザワザワと騒ぎだす。
「それで、俺達学校をやめる事にした」
ざわめきは更に大きくなり、所々から「えー!」とか「うそー!」という声があがる。ハニーニョもエスペリーノも、そして他のところでステージを観ていたレオとリャンピンもショックを受けた。
「別に誰かに退学を強要されたわけじゃないんだ。俺達は元々旅芸人だから、これが旅立ついいタイミングだったのかもしれない。だから、みんなにネタを見せられるのは今日が最初で最後になるかもしれない……」
二人の退学を惜しむ声は徐々に大きくなり、とうとう観客席は大騒ぎとなった。ムチャとトロンのクラスメイト、中等部第一男子寮女子寮の面々、フェアリーボールクラブのメンバー、そして密かに結成されていたトロンファンクラブの会員達。二人に関わったみんなが二人の退学を惜しんでいた。すると、ムチャが叫んだ。
「なんて言うとでも思ったか!! 最初で最後のはずが無いだろ! 俺達はいつか必ず王国一、いや、世界一の芸人になってみせる! そしたら世界一周ライブを開催して、みんなが卒業してバラバラになっても俺達のネタをまた見られるようにしてやる! だからみんな、その時は絶対観に来てくれよな!」
ムチャが拳を突き上げると、観客達は戸惑いながらも二人に応援の言葉と歓声を送った。そしてそれは徐々に大きくなり、やがて会場全体を飲み込む。
また会えるとは限らない。でも、きっとまた会える。そう思わせる何かが、ムチャの言葉には秘められていた。
ムチャは観客達の声に負けぬ声で叫んだ。
「前振りが長くなりましたが、ネタの方にうつらせていただきます!! まずはショートコント! エンシェントホーリーフレイムドラゴン!!!!!」
会場は最高潮に盛り上がっていたが、ネタの方はやはりややウケであった。
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