奥の手
「あの奥さんめっちゃつえーよ……」
ムチャが先程使った感情術「悲連」は、心を鎮め、相手の攻撃を全て受け流し、隙を突いて反撃をする「柔」の技である。しかし、ムチャはカリンの凄まじい威力を持つ怒涛の攻撃を全て受け流す事ができず、あっという間に追い込まれ、一撃をもろに喰らってしまったのだ。
「ほらほら、どうしたお若いの? もっと頑張りなよ」
二人は本気を出すと言っておきながら、まだまだ余裕らしく、ムチャとトロンが立ち上がるのを悠長に待っている。
「まぁ、無理はしない事だ。ギブアップするかい?」
カリンの側へ移動したイワナが優しく声をかけるが、ムチャとトロンは互いに支え合い、立ち上がった。
「そうそう、若いのはそうじゃないとね」
カリンは嬉しそうに笑う。彼女は久しぶりの試合で血が滾っているのだ。まだまだウォームアップにもなっていない。
しかし、カリン達の加減のおかげで、ムチャ達にはまだ体力も気力も残っている。ムチャはトロンにボソッと耳打ちをし、闘技場に響き渡る声で叫んだ。
「トロン、あれを使うぞ!!!!」
「うん」
ムチャとトロンの目が、覚悟を決めた目に変わった。二人の背中から目に見えぬオーラが立ち昇り、闘技場内の空気がサァッと変わる。
「へぇ、何か奥の手があるのかい?」
「面白そうだね」
カリンとイワナは武器を構えた。しかし攻撃を仕掛ける様子はない。どうやら「見せてみろ」という事らしい。
「いいか、俺達を本気にさせたんだ。死んでも文句言うなよ」
ムチャの目がカリンとイワナをギロッと睨みつける。その目は尋常じゃない程血走っている。
「ふん、できるもんならやってみなよ」
カリンはムチャの変わりように異様なものを感じ取ったが、口元を歪めニヤリと笑った。
ムチャは剣を鞘に収め、静かに腰を落とす。そして拳を腰に付けるようにに引き、目を閉じた。トロンはムチャの肩に片手を乗せ、杖をリングに立ててムチャの体を支えるような姿勢をとる。
「我が身に宿る古の竜よ……」
ムチャの拳がポワッと光る。
「今こそその力を我に貸し与え給え……」
トロンの杖が光を放ち始め、リング上に風が吹き始めた。
「始まりの火を灯した汝の名を借り……」
巻き起こる風がより強くなり、二人の体を光が包み込む。
「汝の名を冠する技となす……」
リング上の砕けた岩盤がカタカタと揺れ始めた。
リング上だけでなく、闘技場全てが静まり返っている。
カリンとイワナを含む皆が、ムチャとトロンの一挙一動に目を奪われていた。
「我が放つその技の名は……」
ムチャの目がカッと見開かれる。
そしてムチャは真っ直ぐにその輝く拳を突き出した。
「必殺必死・古竜聖火拳!!!!!!!」
ゴオォォォォォォォオ!!!!!
突き出されたムチャの拳が凄まじい光を放ち、闘技場に轟音が響き渡る。
「これは!?」
イワナは咄嗟にカリンの前に出て、全力で障壁を張った。
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