決着、最強の夫婦vs芸人コンビ
振り向いたムチャは気を貯め、体から紫色のオーラを立ち昇らせる。そしてその紫色のオーラはムチャに纏わり付いた。
「哀……怒……合技」
ムチャの体が紫に染まり、体重が増加し全身が硬化する。
「重鎮!!」
ムチャの感情術が発動した瞬間、カリンがムチャへ拳を振り上げ突進した。
ガガァン!!
ムチャとカリンがぶつかり合い、二人の衝突により砕けたリングの破片が周囲に舞い散る。ムチャは正面から両手でカリンの拳を受け止めていた。しかし、カリンの拳の威力は凄まじく、吹き飛ばされそうになりながらもムチャは腰を落とし踏ん張る。
「ぐおらぁぁぁぁああああ!!!」
ムチャは眼前に迫るカリンの怒りの形相に背筋を震わせた。しかし怯えている暇は無い。カリンの拳を振り払い、すかさず正面からしがみつく。
「がぁぁぁぁぁあ!!!」
カリンは暴れ、ムチャの背を拳で激しく打ち付けた。
「がはっ……ト、トロン!」
「うん!」
ムチャが咳込みながら叫ぶと、トロンは杖を構え、魔力を込める。そして魔力を込めながら、揉み合う二人へと歩みだした。
「我が身に宿る喜と楽の感情よ、我が呼びかけに応え従え」
トロンの体から黄緑色のオーラが立ち昇る。
「緩やかに、暖かく、そして優しく、その力のあり方を変えよ」
ムチャは全力でカリンの体を抱きしめ、引っこ抜くように持ち上げた。カリンは尚もムチャの背を叩き続けている。その力は重鎮を使ったムチャでさえ耐え難い威力であった。
「治癒の光となり、かの者の荒れ狂う心と……」
カリンの肘鉄がムチャの背中を打った。ムチャの口から血が溢れる。しかしムチャはカリンを離さない。
「尻を癒せ」
カリンの背後まで歩み寄ったトロンは、ムチャにより持ち上げられたカリンの尻に杖をポムッと押し当てた。杖を通じ、トロンの杖から黄緑色のオーラがカリンの尻へと流れ込む。
「……はふぅぅぅぅう」
カリンの怒りに満ちた表情が、急激にトロけ、恍惚とした表情に変わった。そして全身から力が抜け、ムチャへだらりともたれかかった。
「あー、そこそこ、もうちょい下……」
トロンはカリンに言われるまま、グリグリと杖をカリンの尻に優しく押し当てる。ムチャとトロンはそのままカリンを運び、リングの外にそっと置いた。トロンはリング上から、腕を伸ばしリング下にうつ伏せに寝かされているカリンの尻に杖を当て続ける。
「えー、カリン選手、リングアウトです……」
実況者が何ともいえない表情で言った。
そしてムチャは感情術を解き、相変わらず縛られているイワナへと歩み寄った。
「どうする?」
ムチャが問うと、イワナはもぞもぞと腕を動かし、事も無げに縄をブツンと断ち切った。トロンの魔力で編まれた魔力の縄に自らの魔力を流して結合を弱くしたのだ。
ムチャは慌てて剣を構える。しかし、その必要は無かった。
「いいよ、参った。僕達の負けだ」
そう言ってイワナは爽やかに笑う。
「いいのか?」
ムチャはイワナに手を差し伸べ、助け起こした。
「あぁ、大したもんだよ。審判、僕はギブアップだ!」
こうして、観客達が訳のわからないまま、ムチャとトロンの勝利が確定したのだ。
「あの子達の試合、面白いけどわけわからないのよね」
「はぁ……」
口ではそう言いながら、マニラは満足そうな顔で頷いていた。
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