少女のこれから

「お姉ちゃんおかえり!」

「ケガしなかった?」

「大丈夫だった?」

 明け方、少女の住処である廃屋に戻ると、子供達が三人を出迎えた。

「この二人のおかげで大丈夫だったよ。心配かけてごめんね」

 少女は駆け寄ってきた子供達を抱きしめた。

「なにはともあれ一件落着だな」

 ムチャは少女達の様子を見て一息ついた。

「でも……」

 トロンは子供達を見渡した。

 皆体は汚れボロボロの服を着てみすぼらしい格好をしている。

「この子達ほっとくの?」

 トロンはムチャを見た。

「って言ってもなぁ。俺達には金もないし、みんな連れてくわけにはいかねぇだろ」

「だよね」

 二人が悩んでいると、再会を喜んでいた少女が二人を見て言った。

「私達は大丈夫だよ。私がなんとかお金を稼いでみんなを大きくなるまで育てるから」

 少女の一切の迷いない瞳を見て、二人は尚更子供達を放っておけなくなった。

「金ねぇ……」

「お金かぁ……」

 その時、二人の頭に同じアイディアが浮かんだ。


 翌日


「全く、私をこんな汚い廃屋に連れてくるなんてどういうつもり?」

 ムチャとトロンは広場でショーを開いていたプレグを少女達が住む廃屋まで無理やり引っ張ってきた。

 プレグは子供達にまとわりつかれてげんなりとした顔をしている。

「プレグ、お前相方を探してたよな?」

「えぇ、優秀なアシスタントをね」

「愛人兼」

「愛人は探してないわよ!」

 そしてムチャは少女を指差した。

「探してきてやったぞ、この子を雇ってくれ。前金で」

「はぁ!?」

 プレグは目を丸くして驚いた。

「なんで私がこんな小娘を。私はトロンみたいな優秀な……」

「ちょっと見せてやれよ」

 ムチャはプレグの言葉を遮ると少女に言った。

 少女はコクリと頷くと、体を半獣に変化させる。

「な!?この子何者なの!?」

「いいから見とけよ」

 体を変化させた少女は獣人の身体能力を活かし、大きく跳躍してから宙返りをしてみせた。それから側宙、三角飛び、バク転などのアクロバットを次々に繰り出す。

 それを見たプレグの目はプロの大道芸人の目に変わっていた。

「どうだ?大したもんだろ?」

 プレグはしげしげと少女を眺め言った。

「全然ダメね、身体能力に任せて飛んだり跳ねたりしているだけで、お客を意識した魅せ方というものがわかってないわ」

 少女はムチャを見ると残念そうに視線を落とした。

「でもよ……!」

「で・も、このダイヤモンドの原石を見逃すというのは勿体無いわね。先物買いしといて損は無さそうね」

 ムチャとトロン、そして少女は顔を見合わせた。

「で、この子の価値はおいくらゴールドなの?」

「この子達がしばらく不自由せずに暮らせるくらいかな」

 廃屋内の子供達を見渡したプレグの頬がピクピクと引き攣った。


 そして旅立ちの日が来た。


「お姉ちゃん元気でね!」

「頑張ってー!」

「病気に気をつけてねー!」

 ルイヌの町の入り口には、少女を見送る子供達、そして少女に世話になった人々が出迎えに来ていた。

「この子達は私達がみんなで世話するから、安心しておくれよ」

「嬢ちゃんには恩があるからな、俺達に任せておけ」

 それを見た少女は馬車の荷台から目に涙を浮かべ手を振った。

「みんな! 元気でねー! 絶対帰ってくるから!」

 御者台でプレグが呟く。

「全く、これじゃ出発し辛くてしょうがないったらありゃしないわ」

「そう言うなよ」

「感動の旅立ち」

 少女と同じく馬車の荷台に乗った二人が言った。

「なんであんた達もちゃっかり乗ってるのよ」

「まぁまぁ、細かい事は気にするな」

「運転手さん、いいとこまでお願いします」

「誰が運転手よ!」

 ひとしきり別れの挨拶を済ますと、馬車は走り出した。

「ムチャさん、トロンさん、本当に色々とありがとう」

 少女は二人に深々と頭を下げた。

「いいって事よ。パンのお礼さ」

「あなたの笑顔は百万ゴールド」

 そう言って二人は笑った。

「本当に百万ゴールド払ったのは私よ」

 手綱を握りながらプレグは頬を膨らました。

「そう言えば、お前の名前聞いてなかったよな」

「すごく今さら」

 今度は少女がニッコリと笑った。


「ニパ、私の名前はニパだよ」


 晴れ渡る大地に、心地よい風が吹いた。

 今日は旅立ちには良い日だ。


ルイヌの町編 おわり

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る