さらば、アレルの街

 その日、アレルの街の入り口には、ムチャとトロンの見送りに来た人々が集まっていた。


「ムチャお兄ちゃん、トロンお姉ちゃん。色々ありがとう」

 すっかり体調の回復したミモルが、目を潤ませながら二人の手を握る。

「おう、元気になって良かったな」

「これからも元気でね」

 ミモルの手を握り返した二人は、見送りに来てくれた人々の顔をぐるりと見渡した。

 ゴドラ一家、ソドルと病院関係者、ポロロとギャロ、カリンとイワナとコラン、マニラと支配人、宿屋の主人と食堂のおばちゃん。そしてプレグとニパ。


 それは旅ガラスの二人にとって、今までで一番多くの見送りであった。

 プレグとニパは、もう少しアレルに滞在してから南に向かうと言っていた。

 ナップとフロナディアは見送りには現れなかった。

「まぁ、フロナディアはともかくナップは元は敵みたいなもんだしな」

「またどっかで会うでしょ」


 二人が皆と握手を交わし終えると、見送りを代表してマニラが二人に贈り物があると言い、トロンに真っ白な花束のような物を手渡した。

「なぁにこれ?」

「それはジァイアントタンポポの綿毛よ」

「綿毛?」

「そう、あなた達が風に乗ってどこまでも飛んで行き、その先々に笑いの花を咲かせられるようにね」

 そう言ってマニラはかつて見せた事の無い優しい笑みを浮かべた。

「マニラ、男だったら結構モテるだろうな」

「そんな事言ってるとキスするわよ」

 ムチャは逃げるようにマニラが手配してくれた馬車に乗り込んだ。トロンも見送りの人々に礼をして、馬車へと乗り込む。

「じゃあな! みんな!」

「元気でねー」

 二人を乗せ、馬車はゆっくりと動き出す。

 皆の歓声に応え、二人は大きく手を振った。そして大きく息を吸い込み、ジァイアントタンポポの綿毛に息を吹き付ける。


 ふわっ


 綿毛は風に乗り、雲一つないアレルの空に舞い上がった。

 綿毛達はどこへ行き、どこで花を咲かせるのか。

 それは神のみぞ知るところである。


 アレル闘技場には今日も戦士達の雄叫びと、観客達の歓声がこだまする。


 今日は旅立つには良い日だ。


「彼等に、笑いの神の加護があらんことを」


 その場にいる誰もが、旅立つ一組の芸人達のためにそう祈った。


 アレルの街編〜完〜

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