ミスコンテスト
打ち合わせの二日後の事である。今日は闘技場での試合が休みの筈なのだが、アレル闘技場は多くの人々でごった返していた。闘技場の周囲には食べ物の露店や屋台が立ち並び、まるでお祭りのようだ。
「ミスコンテスト?」
先日の打ち合わせ中、マニラが口にしたワードにムチャとトロンは首をかしげた。
「そう、うちの闘技場では年に一度闘技場関係者が参加するミスコンやってるのよ」
「闘技場なのにミスコンやるの?」
トロンの疑問はもっともである。闘技場といえば本来男と男の血で血を洗うむさ苦しく激しい闘いを観戦する所である。
「うちは地域密着型のクリーンな闘技場だから、イベントも色々やってるのよ。因みに夏祭りもやるわよ」
「「へー」」
二人は感心したようにコクコクと頷く。
「で、ミスコンがどうしたんだ?」
「そうそう、ミスコンにトロンちゃん出なさいよ」
マニラはさも当然のように言った。
「「え!?」」
唐突なミスコン参加要請に、二人は驚きの声をあげる。
「あなた達も結構有名人になったし、トロンちゃんには一部のマニアックなファンがついてるし、結構いい線いくと思うわ。それにミスコンには沢山のお客さんが来るから、参加するだけでライブの宣伝になるわよ」
「いやいや、うちのトロンはミスコンとか出るタイプじゃねぇよ。それに芸人がビジュアルを売りにするってのもなぁ、トロン?」
ふんす
ムチャがトロンを見ると、なぜかトロンは姿勢を正してキリッとした顔をし、鼻息を荒くしていた。相変わらず目はトロンとしていたが、どうやら参加する気満々らしい。
「えー……」
ムチャの額に汗が伝った。
「私、出る。水着審査が無いなら」
「あら、それは良かったわ。大丈夫、水着審査は無いし、水着審査があってもあなたならきっと大丈夫よ」
マニラの目がキラリと輝く。これはスターの原石を見つけた目だ。
水着審査が無いと聞いて、トロンだけでなくムチャもホッとする。ムチャは昨日夢の中で見たトロンの可愛らしいオシリスを大衆の目にあまり晒したく無かったのだ。ちなみにムチャ自身はネタのために全裸になる覚悟をしている。
「じゃあ、エントリーしとくわね」
こうして、意外と出たがりなトロンのミスコン参加が決定した。
「なんだかなぁ」
ムチャは屋台で買ったフランクフルトをモグモグしながら、観客席の最前列でミスコンの開始を待っていた。トロンが出るのはちょっと心配であったが、正直最前列で美女達が見られるのは嬉しい。
「いやぁ、トロンさんがまさかミスコンに出るとは。驚きですね。あ、ポテト食べます?」
ムチャの隣にはポロロが、その隣にはギャロが座っている。ギャロは人形の姿をしているが表情がわかりやすく、ワクワクしているのが見て取れる。彼は食事や飲酒を楽しめない分、美しい女性を愛でる事を唯一の娯楽としており、ミスコンに興味の無いポロロに頼み込んで、いや、命令して、会場に連れてきて貰ったのだ。そして先程屋台でポテトを買っていると、隣の屋台でフランクフルトを買っていたムチャとバッタリ遭遇し、一緒にミスコンを見る事になったのだ。因みにトロンはムチャよりも早く宿を出て、裏で色々と準備をしている。
ムチャが辺りを見渡すと、観客席にはチラホラと見知った顔があった。少し離れた席にはイワナがいて、膝にコランを乗せている。カリンがいないという事は、もしかしたら彼女もミスコンに参加するのかもしれない。他にはゴドラとコモルの姿もあった。
ムチャがフランクフルトを食べ終わる頃、アナウンスが入った。
「さぁ、皆様お待たせいたしました! 今年もこの日がやってきました! 第九回、アレル闘技場ミスコンテストを開催致します!」
観客席から拍手と歓声が上がり、こうしてアレル闘技場のミスコンテストが始まった。
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